うんめー

文字数 1,998文字

 ある会議室に大人達が神妙な面持ちでテーブルを囲んでいた。
 部屋の白ろい壁にプロジェクターが投影されて、一人の老紳士が映し出された。
「おはよう。諸君。私は前置きが嫌いなので、単刀直入に言おう」
「私は我慢の限界だ。もう実力を行使する。君達が心を入れ替えることを願っている」
 映像はそこで切れた。
「と、こんなものが送られてきたもぐもぐ」
「これは由々しき事態じゃないかむしゃむしゃ」
「とうとう来てしまったか。この状況ががじがじ」
 まるテーブルを囲んだ男達が真剣に話していた。チョコを食べながら。
「彼の狙いは?うまうま」
「おそらくチョコレート工場の爆破だろうはひょー」
 一人チョコを食べずに話を聞いていた女が口を開いた。
「状況は逼迫しています。目覚まし型爆発物が見つかりました。担当者によるとある人物以外解除できないと報告を受けました」
「「ある人物??」」
 チョコを食べるのをやめてみんなでわざとらしくハモった。
 ふざけてんのかこいつら。と女は思った。

 行けども行けども植物植物。女は議会の指示を受けて、ある人物の住まいへと進んでいた。このジャングルを抜けると家があるらしい。なんとか草を薙ぎ払い進んでいると、急に開けた場所に出た。その向こうにぽつんと一軒家があった。
 あそこか。
 女は疲れ切った身体をなんとか動かして、家の前までたどり着く。
 ピンポーン
 と呼び鈴を押す。
 呼び鈴……。
 なんとなく不自然さを感じたが今はそれどころではない。
「はい」
 インターホンから若い男の声がした。
「あっサルネさんのお宅ですか?わたくしチョコレート議会から参りました。猫田と申します」
「確かに私はチョコオタクですが」
「あっいえ。そう言うことではなくて……」
 くそっ。ここにも面倒くさいのが。
 かちゃっと扉か開いた。
「どうぞ」
 挨拶をしようよしたが、それよりも早く男が中に猫田を招いた。中は和風の造りでなんだか落ち着く。男は客間に猫田を案内して座る様に促した。座布団の上に座ると部屋の端っこで猫が丸まって寝ていた。三毛猫だ。猫に見惚れていると男が茶を置いて向かい側に座る。
「ご用件を伺いましょう」
「すいません急いでいるので単刀直入に。サルネさん。貴方にやってほしい事があります。チョコレート男爵、つまり貴方の先生の暴挙を阻止してほしいのです」
「私はサルネではありません。サルネは」
「ーャ二ーャ二ャ二ャ二」
 訳の分からない猫語で三毛が言った。
「そろそろだと思っていたよ」
 男が言う。
「ーャ二ーャ二ーャ二」
「いいだろう」
 また男が言う。
「あっ。僕は通訳兼使用人の狗と申します」
 あっけに取られたが事態は急を用する。
「是非来てください!!」
 猫田は唾を飛ばして叫んだのだった。

「ここか」
「はい」
 サルネの猫語は省略されて狗の通訳だけが聞こえている。 
 ここ、チョコレート工場の一角がテープで囲われていた。そこには目覚まし時計が置いてある。
「これです」
「どれ」
 サルネが猫パンチしている。
「ちょっ、そんな事したら」
「待ってください。これはサルネの得意技。猫パンチです」
「いやだからそんなの見てわかるわ。刺激を加えたら……」
 とひとしきり遊んだのかじっと目覚ましを見つめるサルネ。
「どうだむしゃむしゃ」
「ああ。武者さん」
 議会の大人が来ていた。後ろにも勢ぞろい。皆チョコを食べている。死ぬぞ。チョコ食い過ぎで。
「これは困った。あれをやるしか……やるんですねあれを。サルネさん!」
 何故か興奮気味の狗さん。めっちゃ不安。
「なぜ俺が逆さ語を喋っているか分かるか?」
「ああ。逆さ語だったのか……」
 暫く考えて、
「分かりません」
「そうだ! それだ! それが俺にパワーをくれる!! スーパーネ申猫!!」
「あっ。喋った……」
 そして意味わからんスイッチで草。
 サルネの周りに黒い光がシュンシュンと輝き、そして地面がいや地球が揺れている。すると何処からともなくチョコレートが飛んで目覚まし時計を包んだ。
「そうか! これで爆発を防ぐんですね!」
 猫田は興奮して叫んだ。
「そうだ。男爵。いや先生。これでいいんですよね……」
 サルネの瞳からは大粒の涙が溢れた。
「あ! 時計が」
 見るとチョコレートで包まれた時計が激しく揺れ始めた。これはやばいのでは?
「くそっ! 持ってくれチョコレート! そして男爵。お歳暮は美味しい猫缶をくれぇぇぇ!」
「サルネさあああん!!」
 猫田は力尽きたサルネに駆け寄った。
「しっかり! サルネさん!」
「ここまでの様だ。ありがとう。最後に君に会えて良かった。夢で……また…会おう……ガクッ」
「くっっ」
 猫田が悔し泣きをしていると、例の時計が光始めた。だめだっ! 爆発する! 
 チュドーン
 目覚まし時計は爆発して包んでいたチョコが飛び散り、彼らのそう彼らの口へだいぶ!
「「う、うんめぇぇ〜〜!!」」
 そして彼らは昇天したのだった。
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