事故物件

文字数 892文字

「……はい、〇〇不動産です」
「もしもし、空き部屋の問い合わせいいスか?」
「もちろん歓迎ですよ」
「三丁目の‪‪✕‬‪✕‬ハイツなんスけど」
「あいにく、そちらは満室にとなっております」
「え? そんなハズないッしょ。だって、この前殺人事件があったじゃないスか」
「えっ……」
「三階の東の角部屋っスよ」
「……あぁ、確かに」
「もう次、入っちゃったんスか?」
「いや……」
「なら、近々掃除して、入居者募集するんスか?」
「いや、あの部屋は募集しませんね」
「なんで?」
「まだ犯人が捕まってないでしょう。ですからご遺族が、犯人逮捕まで、事件現場をそのままの状態で保存したいと、契約を続けられるそうです」
「マジすか! それは残念だなぁ」
「……というと?」
「正直、あの部屋、前から狙ってたんスよ。駅は近いし見晴らしいいし、建物も新しいっしょ。ただ、家賃が高くて手が出なかったんスよ」
「……はぁ」
「だから、殺人事件があったと聞いて、事故物件なら安く出るんじゃないかと思って、電話したっつー訳です」
「…………」
「あ、ちょっと不謹慎でした?」
「……ええ、まぁ……」
「でも、不謹慎も何もないっしょ。おたくらだって、殺人事件があった部屋じゃ、持て余すだろうし、こっちは安い分には助かるし」
「事故物件がご希望でしたら、他にもご案内できる物件はございますよ」
「いや、やっぱあの部屋がいいっスね。何なら、遺族の方を説得して欲しいっスね。あんないい場所、誰も住まずに置いとくの、もったいないっしょ。近所の人も気分悪いし」
「こちらからそういう話はできませんね」
「なら、俺から話しますよ」
「個人情報はお教えできませんので」
「知ってるから大丈夫っス」
「えっ?」
「……あ、いや、ネットの掲示板とかで、被害者の情報、ガンガン出てるんで」
「…………」
「やっぱこういうの、不謹慎スか?」
「ご遺族からすれば、あまり気分の良いものではないでしょうね。下手すれば、警察沙汰かと」
「警察沙汰はマズいっスね……」
「あの部屋は諦めて、他を探されては?」
「チッ。せっかく事故物件にしたのに……」
「……えっ?」
「いいです、また他を探しますから」
 ――プツッ。
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