第1話

文字数 1,996文字

天界バスに揺られて一時間。
もうすぐ目的地に着くらしいが、どこへ行くか聞かされていない。
天国へ向かっているのか、それとも地獄へ向かっているのか。
それだけが気になり、何度も外を見てしまう。
雲だけの景色を眺めていると、車内アナウンスが流れた。
「まもなく天国トンネル~、天国トンネル~」
天国と聞いて、胸を撫で下ろす。
他の死者達も安心したのか、安堵の声を漏らしている。
俺は死ぬ前、高層ビルを建築していた。
命綱をつけ忘れ、十階から足を滑らせて転落し……。
思い出すだけで身震いする。
高所からの転落は、もう二度と味わいたくない。
嫌なことを思い出していると、バスが止まった。
ここから少し歩くそうだ。
「うおっ!?」
バスから降りると、地面が柔らかくて思わず変な声が出てしまった。
地面が、雲なのだ。
モッフ、モッフ、モッフ、モッフ。
ジャンプすると、トランポリンみたいに宙に浮いて楽しいぞこれ!
周辺の雲の色が、ジャンプする前より黒くなっている。
「こら!ジャンプしてないで早く来なさい!」
バスの運転手に怒られてしまった。
まだモッフモッフしたかったが、置いていかれそうになったので、急いで皆の元へ向かう。
運転手に案内されたのは、雲で出来たトンネル。
どうやらここが天国トンネルらしい。
「じゃあ俺はここまでだ。皆、達者でな」
そう言って運転手は去っていった。
交代するように現れたのは、二人の小さい天使。
「死者の皆さん、長旅ご苦労様でした。天国行きか地獄行きかを判定するため、これから皆さんには、このトンネルを通ってもらいます」
「日頃の行いが良かった者は天国、悪かった者は地獄行きです。足元に気をつけて通って下さい」
天使達の説明を聞いて、戸惑いの声をあげる死者達。
おかしい、車内アナウンスでは天国トンネルと言っていたはず。
「こちらをご覧下さい」
天使達はトンネルの横にある看板を指す。
看板には、天獄トンネルと書いてある。
てんごく違いで、戸惑いの声が更に大きくなった。
「自分に自信を持って下さい。きっと大丈夫です」
「神様はちゃんと見てくれてますから」
天使達は落ち着いた声で俺達をなだめる。
皆が落ち着いたところで、前にいる死者から順番に通ることになった。
俺はモッフモッフしてて遅れてきたから一番最後だ。
最初にトンネルを通るのは、いかつい男性。
自信満々の足取りでトンネルに入っていき、進んでいく。
トンネルの真ん中を過ぎた所で、トンネル内から低い声が響き渡った。
「地獄行き~!」
「わあああぁぁぁ───」
男性は悲鳴をあげながら真下へ落ちていった。
「このように地獄行きだと閻魔様ボイスが流れ、地獄へ落ちます」
天使達は淡々と説明した。
きっとあの男性は前科があったのだろう。
二人目、三人目、四人目と続けてトンネルに入っていったが……。
「地獄行き~!」
次々と落ちていった。
皆で行けば怖くないと言って、俺を置いて皆はトンネルに入っていくが……。
「地獄行き~!」
全員落ちていってしまい、残るは俺だけになってしまった。
まさか俺以外全員悪人だったとは。
死者達が落ちていくのを見ていた天使達は、肩を揺らして笑い始めた。
「ひっひっひっ!馬鹿な死者達め!」
「本当だね!ひっひっひっ!」
まるで悪魔のような笑い方だ。
あまりの豹変に少しビビる。
「これで千人ぐらい地獄へ送ったね!」
「うん!天国行きばかりで僕達忙しかったから、これで仕事が減るね!どうせ地獄は暇してるしちょうどいいよ!」
なるほど、天使達は楽をするために全員地獄行きにしていたのか。
天使達が話に夢中になっている間に、ゆっくりと近づく。
「この調子で次のグループも……あっ」
「どうしたの?……あっ」
やっと俺に気づいた天使達。
俺は天使の輪から手を入れ、天使達の頭を掴んだ。
「なにすんだ!」
「離せ!離せ!」
「うるせぇ!こうしてやる!」
俺は大きく振りかぶって、トンネルの地面に向けて天使を一人投げた。
「地獄行き~!」
「わあああぁぁぁ───」
天使は悲鳴をあげながら地獄へ落ちていった。
天使を地獄行きにするのは気持ちいいな!
俺は再び大きく振りかぶり、もう一人の天使を脅す。
「俺を天国行きにしろ」
「わ、分かりました!トンネルの設定をいじるので離して下さい!」
解放してやると、天使はコントローラーを取り出し、カチッと音を鳴らした。
「これであなたは天国行きです!申し訳ありませんでした!」
「これからは心を入れ換えて、真っ当に働けよ」
俺はトンネルに入り、念のため足元に注意しながら歩く。
トンネルの出口まで、もう少し。
よかった……俺は天国に行ける。
「地獄行き~!」
あと一歩というところで、俺は真下へ落ちた。
「バカめ!さっきお前が雲の上で何度もジャンプしたせいで、地上の山に雷が落ちて山火事になったぞ!それに天使を地獄へ投げた奴が天国に行けるわけないだろ!バーカ!」
「クソ天使めぇぇぇ!!!」
俺は高所からの転落を二度味わうことになった。
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