第1話

文字数 1,599文字

フルーツのうえんにすむ『リリィ』は、ジャムがだいすきなおんなのこです。
きょうはつくったばかりのさくらんぼジャムと、やきたてのパンをもって、もりへピクニックにきました。

すると、きのしたにおとこのこがたおれているではありませんか!
おとこのこは、かおがまっさおです。
リリィがあわててこえをかけると、グルルとおとこのこのおなかがなりました。
どうやら、おなかがへっているようです。

「これ、わたしがつくったさくらんぼジャムとパンなの。どうぞたべて?」
「……そんなの、なにがはいっているかわからない。いらないよ」

おとこのこは、けいかいしているのかなかなかたべてくれません。
ためしにリリィがひとくちたべてみせると、おとこのこはあんしんしたのか、ようやくジャムとパンをうけとってくれました。

けれど、おとこのこはまだあおいかおをしています。
リリィがはなしをきくと、おとこのこはとおいくにのおうじさまで、あたらしくきたおきさきさまと、そのむすこにいじめられてにげてきたというのです。

「あたらしいおかあさまも、おにいさまもほんとうにこわいんだ。きっといまも、ぼくをさがして……あっ」

おうじがリリィのてをひっぱり、くさかげにかくれました。
リリィがつないだてにドキドキしていると、どこからかおそろしいなきごえがきこえます。
おきさきさまが、おうじをつかまえるためにもりにむかわせた、きょうぼうなオオカミたちでした。

「あのオオカミたちは、とてもはながいいんだ。すぐにぼくのにおいにきづいて、こっちにくるかもしれない」
「こっちにきたら、あなたはどうなるの?」
「きっとたべられる……ほらみて、よだれをたらしているだろう。わざとおなかがすいたオオカミをえらんで、ぼくをおわせたんだ」

つないだおうじのてが、ブルブルとふるえています。
リリィはおうじのてをひき、オオカミにみつからないようフルーツのうえんへにげることにしました。
うしろからオオカミがおいかけてくるあしおとがきこえますが、フルーツのうえんにもぐりこめばリリィのかちです。
いろいろなしゅるいのフルーツの、あまいかおりがおうじのにおいをかくしてくれて、オオカミたちはウロウロとしています。
さらに、リリィがこっそりじめんにまいたフルーツをたべたオオカミは、ビリビリとしびれてにげてしまいました。

「はながいいってきいたから、ここにつれてきたの。それにおなかがすいているなら、ビリビリしびれるフルーツでもたべちゃうだろうなっておもったのよ」
「あ、ありがとう……そういえば、きみのなまえは?」
「わたしはリリィよ。あなたは?」
「ぼくはチェル。リリィ、ほんとうにほんとうにありがとう」

リリィたちがさくらんぼのきのしたではなしをしていると、ものおとにきづいたおかあさんが、ふたりのもとにあるいてきました。

「あなたたち、なにをしているの?」

リリィがチェルのことをせつめいすると、おかあさんはチェルのあたまをやさしくなでました。

「たいへんだったね。おなかはへってないかい?」
「リリィがさくらんぼジャムとパンをたべさせてくれたので、だいじょうぶです」
「あら、さくらんぼジャムを?」

おかあさんが、クスリとわらいます。
リリィとチェルがくびをかしげると、おかあさんがさくらんぼジャムのおまじないをおしえてくれました。
さくらんぼジャムをたべあい、てをつないだふたりは、いっしょうはなれることがないというのです。
リリィはおまじないのないようをきいて、はずかしくなってしまいましたが……。

「ぼくは、リリィといっしょにいたいよ。おしろにもかえらない!」

チェルは、とってもうれしそうなかおをしていました。
リリィのすきなジャムよりも、もっとあまくとろけてしまいそうな、やさしいえがおです。

チェルはフルーツのうえんでくらすことになり、ふたりはさくらんぼジャムのおまじないのとおり、いっしょうはなれることはありませんでした。
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