第2話

文字数 883文字

大学生になっても、社会人になっても、彼女と私との関係は途切れなかった。
カフェやレストランで定期的に会っては近況を語り合った。
『これね、彼氏とおそろいのミサンガ!可愛いでしょ。』
『この前彼氏と別れちゃってさー。』
『あ、そうそう、タバコ吸い始めてね。なんか憧れちゃって。』
会う度にコロコロと様子を変える彼女と違って、彼女が身にまとうリボンはずっと私が教えた結び方のままで、ただそれだけが、私が彼女を繋ぎとめられる唯一の糸のような心地がした。親友のままでいられたらそれでいいなんて綺麗事だ。会ったこともない彼女の恋人たちに、私は激しく嫉妬した。
燻るような不安と嫉妬を抱えながら、私はいつも曖昧な笑顔を貼り付けて、彼女の話を聞いていた。

そんな日々も、ある時終わりを告げる。
「前から付き合ってた彼氏と、この間結婚したの。」
社会人になってから4年ほどたった頃だった。彼女の一服にいつものように付き合っていたときだ。会話の延長みたいに、彼女は私にそう告げた。
「結婚・・・?」
「そう!すごく趣味が合う人でね。この人となら一生一緒にいられるかなって。」
いつもと同じタバコを指の間に挟みながら、彼女がはにかむ。
なんて、幸せそうな顔をするんだろう。私ではきっと、彼女にこんな顔はさせられない。
「そう・・・なんだ。」
«おめでとう»という簡単な一言が言えずにうつむくと、彼女の履いているスニーカーのリボンが目に入る。
私が教えた結び方だった。
(よかった。まだ、大丈夫だ。)
瞬間的にそんなことを考えて、私ははっとする。
リボンの結び方を教えたあの日から、抱いているこの気持ちの正体に気づいてしまった。
お揃いのミサンガや、結婚指輪なんかより、ずっと一方的で汚くて脆い、独占欲の塊。
気づいた途端、自分がどうしようもなく愚かしく感じて私は顔を覆った。

正直、それ以降の記憶はあまり残っていない。
結局«おめでとう»と言えなかったことと、結婚式の招待状を衝動的に破り捨てたことは微かに覚えている。
私はもう、彼女に会ってはいけないと思った。彼女に会わないのが、彼女のためにも、私のためにも一番いい。そう、思った。

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