見返り
文字数 1,591文字
彼女は学生時代からたくさんの友人に囲まれ、笑顔の絶えない日々を送っていた。
成人した現在も、学生時代に出来た友人たちと今度は車というアイテムも加わって行動範囲も広くなり、吹雪も毎日楽しい日々を送っているのだった。
(今日は
吹雪はそう思うと、スマートフォンに手を伸ばし、怜美の欄でチャットを打つ。
『今から、ラーメン食べに行かない?』
怜美にチャット打った後、しばらく吹雪は車の中で大音量の音楽を聴く。ノリノリで身体を揺らしていると、スマートフォンがメッセージの通知を
吹雪は音楽に身を委ねながら自分のスマートフォンへと手を伸ばし、表示されているメッセージを見た。
『いいよ~』
怜美からの返事はそっけない。
しかしノリノリの吹雪はその温度差に気付くことはなかった。
こうして毎日代わる代わるの友人に声をかけては、夜な夜な遊び回る日々を過ごしていた。
吹雪の家庭は崩壊寸前だった。
毎日怒声が飛び交い、兄弟とも憎しみあい、両親も双方で憎しみあう。
そんな家庭環境だったため、吹雪の夜遊びは友人たちを巻き込んで加速していくのだった。
そんな日々が続いたある日。
その日も吹雪は愛車を走らせていた。今回は一人でドライブをしようと言う心持ちだったのだ。
(たまには一人でもいいよね)
吹雪は相変わらずの大音量の音楽を響かせながら愛車を走らせる。
そして交差点に差し掛かったときだった。
(え……?)
それは一瞬の出来事だった。
右折待ちをしている時、対向車線を走っている直進車が吹雪の車に突っ込んできたのだ。
事故の瞬間、吹雪の視界が一気にスローモーションになる。
(
そんなことを考える余裕さえ出てくる一瞬の事故だった。
そして時間がスローモーションから普段の流れに戻った時、吹雪は胸に息苦しさを感じた。
(呼吸が……、苦しい……)
それからは意識がハッキリしているため、警察を呼んでの現場検証、車の保険会社に事故の報告など、初めての事故に吹雪は不安を感じながら大人の言いなりになって連絡を回していた。
そして少し落ち着いた時、
「廃車ですね」
車の破損状況を見ていた車屋から言われたのはそんな一言だった。
事故の衝撃は修理を許さず、車を廃車に追い込んだのだ。吹雪にとってそれは死刑宣告に等しい。
更に、事故に関しては吹雪の方が悪いと判断されたため、保険金もさほど下りることはなかった。
(なんで、こんな目に……)
吹雪は怒号が飛び交う家にいることを余儀なくされてしまったのだった。
そんな時、今まで遊んでいた友人たちへと助けを求める連絡をした。しかし、
『大変だね~。頑張れ!』
返ってくる返事はどれも励ましのようでいて、吹雪を救うものではなかった。
(私は、あんなにもいっぱい彼女たちを外に連れ出してあげてたのに……)
誰も自分を助けてくれないと分かった瞬間、吹雪には憎しみにも似た感情が生まれた。そして虚無感に包まれていく。
(忘れたい……)
吹雪は絶望の中、今まで友人だと思っていた人たちの存在を消したいと思った。それと同時に、
(自分も消したい……)
そう感じないわけにはいかなかった。
今回、吹雪が陥ったのは自己中心的な感情だった。
友達にこれだけのことを『してあげている』のだから、友達も自分へ『お返しをすべきだ』と言う、見返りを求める心が生まれ、それが友達を失う原因になってしまったのだ。
人との付き合い方は難しい。
しかし、見返りを求めたり、他人に期待する心を過度に持ちすぎたりすると、周囲から人が消える原因にはなるのだろう。
これを読んでいる人たちは今一度、そんな過度な期待を周囲にしていないか、確認してみるといいかもしれない。