烏合の衆の罠

文字数 1,493文字

「ペコ、5+3はいくらだ?」
「パコ先輩、いきなりなに言うんですか。そんなの8に決まってるじゃないですか」
「そうか?でも99人が10と言ったらどうだ」
「そんなバカな。誰が何といっても8でしょ」
「ところが人間社会は100人中99人が10と言えば正解は10になる」
「嘘~う」
「一番有名なのがガリレオの地動説だ」
「知ってますよ。地球が太陽の周りを回ってるてやつですよね」
「そうだ。それまでは地球は動かず、すべての星が地球の周りを回ってると思っていた」
「ガリレオは地動説を本にして、それで教会から裁判にかけられ処刑されたんでしたよね」
「おかしな話だよな。地動説はガリレオ以前の大昔から言われていたけど、誰にも相手にされなかった。しかし、コペルニクスが科学的に説明したあたりから雲行きがおかしくなった」
「そうだったんですか」
「ガリレオは宗教にも熱心だったから、教会は信者がガリレオの地動説を受け入れ宗教心をなくすのを恐れたんだ」
「それだけの理由で殺すなんてひどい」
「バカバカしい話だろ。人間がどう考えようと宇宙は変えようがない。それなのに多数が決めたことが正解になってしまう」
「本当ですね」
「教会が間違いを認めてガリレオに謝罪したのは1992年。人類が月に行っても認めようとしなかったということだ。これは昔だからじゃない。こうしたことは今でもある」
「そういえばそうですね」
「政治なんて多数決でなんでも決めてしまう。そのくせ失敗したら国民にそのツケがまわる」
「・・・」
「そもそも選挙でかならず誰かを選ばなければいけないのがおかしい」
「なんで?」
「全員政治能力がないということだってあるからだよ」
「あっ、そうか」
「すべてがハズレくじのどれをひいてもハズレだろ」
「はい」
「こんな程度の低いイカサマも分からない有権者が政治に無責任なんだ」
「・・・」
「それに、多数決では多数派工作ができる」
「えっ」
「最初に質問した5+3を99人が10と答えたのは、10と答えた人を99人集めればいいだけだ」
「そっか」
「アトランダムに百人、あるいは千人、一万人に聞けば、正解は8になるかもしれない。だけど、それで正解を決めることじたい間違いだ」
「そうですよ。最初から答えは決まってるんだから多数決は無意味です」
「自然界に多数決はない」
「・・・」
「可能性のあることはすべて実行して、その結果が有効なモノが生き残る」
「・・・」
「勘違いしたらいけないのは、強いモノ、優秀なモノだけが生き残るわけじゃない。むしろ弱いモノ、劣るモノが生き残っている」
「・・・」
「人間がいい例だよ。道具を使わなければ生きられない。動物としては欠陥だらけだ」
「なるほど」
「多数決は人間が作った最悪の道具ともいえる」
「はい。でもどうすればいいんでしょう」
「自然界と同じように、問題解決の方法を複数考え、シミュレーションして、効果があるものを実証実験して確かめ、採用するかどうかを決める」
「それいいですね。それだったら役に立たない政治家はいらないし、国会の無駄な時間もなくすことができて税金の無駄がなくなる」
「それには、国民がもっと賢くなることだ。多数決という程度の低い詐欺ぐらいすぐに見破れないようじゃダメだ」
「どうして見破れないんですかね」
「それは計算感覚が低いからだ」
「・・・」
「計算はなにも数式だけでなりたっているんじゃない」
「・・・」
「論理的思考というのも計算の一種だ」
「それが詐欺にダマされないことにつながるんですね」
「そして、金儲けにも役に立つ」
「それ知りたいです」
「じゃあ、授業料千円」
「ええ、金とるんですか?」
「なぁ、金儲けになるだろ」
終わり
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登場人物紹介

後輩ペコ

先輩パコ

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