配信主、つるりん

文字数 804文字

「今日は早いけど、生配信はここまでにしたいと思いまーす」

 夜の11時前、俺はパソコンで配信動画を見ていた。
 今人気の配信動画の配信者・つるりん。
 その名の通り、頭がつるっつるのスキンヘッドで、それを売りにしているのだ。
 まだ30代半ばだというのに、おしゃれではなく、遺伝で若くしてはげてしまったらしい。
 定例会という生配信だが、毎週金曜日の夜10時から二時間程するのに、本日は一時間未満で終了。

『短くね!?』
『なんだデートか!?』
『明日休みじゃないの?』

 あまりの短さに、コメント欄もざわつく。
 もちろん、リスナーの俺も同じ気持ちだ。

「いやー、それが、明日会社の懇親会で、海に行かなきゃなのよー」

 お酒を片手につるりんは言う。

「……会社の懇親会で、海……?」

 俺は、思わずおうむ返しをした。
 俺も明日、会社の懇親会で海に行くのだ。
 明日は土曜日なので、日曜日の混雑時を避けて、行う会社もいるかもしれない。
 俺は、課金をしてコメントを行う。所謂投げ銭コメント。これだと、つるりんは優先的にコメントを読んでくれるのだ。

「あ、なおやさん、投げコメありがとう」
「拾ってくれた!」
「えーっと? 俺も明日、海に行くんですけど、会えますかね? どこの海ですか?……それは言えないなー! 俺の何十万のファンがきちゃうでしょー」

 さすがに、どこかまでは言ってくれなかった。

「でも、朝早くからお昼までいるかな? 熱中症対策でさっさと帰るから」
「時間帯も同じ……」
「全俺ファンの諸君! 頑張って探してみてくれたまえ! 見つけたら、つるりーん、って呼んでなー。それでは、最後まで見てくれてありがとう! おつるりん!」
『おつるりん!』
『つるりんも熱中症ならないでね!』
『気をつけて~おつるりん!』

 おつるりん、とは、つるりんチャンネルでの、お疲れ様、の意味である。
 それと同時に、配信は終わり、名残惜しそうにコメントだけが流れていた。
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