第1話

文字数 958文字

あれは、一年前くらいのことだった。
飲み会の帰り道、深夜1時を過ぎて、あたりを歩く人はほとんどいない。
ほとんどではない、いない。

少し酔っぱらい、どうせ人もいないからとスマホでYouTubeの音楽を流し、調子に乗ってイヤホンもせずに歩いていた。
暗闇と静寂。静寂の中に少量のバンド音楽。

住宅が並ぶ小路を歩いていると、左前方にある家の玄関前に何かが置かれているのが視界に入った。
スマホでPVを見ていても何かあるのがわかるくらい、存在感があった。

デカめの観葉植物とかかな。
そう思いつつ顔を上げた。

そしたら、いた。
とある家の玄関前で立ち尽くすおじいさん。
単純な表現だが、マジでゾッとした。
一瞬にして、酔いも吹き飛んだ。

玄関前の蝶番にあたるところ。
暖色の灯りで照らされたおじいさんが、こちら側を見ている。
白髪で額が禿げ上がっているが、後ろ髪は長い。ギョロついた眼が強烈だ。
微動だにしないところが、さらに恐怖を与える。

スマホから顔を上げた自分と目が合う。
・酔っぱらって家から締め出された?
・夢遊病や徘徊癖のある人か?
・他人の玄関前に佇むことで快感を得るタイプ?
恐怖とともに、瞬時に色んな思考が巡る。

マジ怖い。
マジ怖い。
マジ怖い。

時間にすると1秒ほどだが、めちゃくちゃ長く感じた。
もしヤバい人だったら――襲われたりしないよう、且つがっつり目が合っているこの状況をうまくおさめる方法を見つけなければならない。

会釈。
自分は、しっかりと会釈をした。
こんな闇夜にたまたま出会った者同士、ですよね~。みたいな。

おじいさんは私の会釈に全く反応を見せなかった。
私はそのまま通り過ぎていく。マジ怖い。

少しだけ早足で歩く。
追いかけて来たり、襲ってこないかと100メートルほど離れるまでに三度は振り返って確認した。

おじいさんは追って来なかった。
車が走る大通りまで来て、ようやく一安心する。
(いま思えば、おじいさんに対して非常に失礼な見方をしたかもしれない)

それにしても、怖かった。
誰もいない深夜の道と思っていたから、余計に怖い。

おじいさんとの遭遇時、見つめあう二人を包むように、スマホからは女王蜂というバンドの音楽が流れていた。
イヤホンなしのダイレクトで。
割と明るい曲で良かったが、女王蜂の中でも映画『貞子』の主題歌だったなら、漏らしていたかもしれない。
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