終末に焦がれて

文字数 983文字

朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。

何年前から、この始まりを聞いているのだろう?

聞き慣れた朝の挨拶は、そこにあるはずの意味を誰にも教えてはくれない。
俺はいつも通り、歯を磨き、ちょうど焼けたトーストを齧る。

「四季、帰りに卵買ってきてよ。卵焼き作ったら終わっちゃって。」

お弁当を受け取りながら、俺は渋い顔をした。

「母さんが買えばいいだろ?」

「今日はおじいちゃんのホームにおばあちゃん連れてく日でしょ?」

ああ、と思う。

「夕飯、弁当なら、俺、カツ丼がいい。」

「わかったわかった。早く行きなさい。」

「行ってきます。」

世界の終わりまで後、7日。
今日も何の変わりのない1日が始まる。

俺は履き古したスニーカーを履いた。
10日後に、ずっと欲しかった新作が出るので、それまで我慢だ。

「おはよう、しーちゃん。」

玄関を出ると、幼なじみが待っていた。

「はよ。」

「今日も気持ちのいい、終末日和ですな。」 

「そうか?なんもかわんねえけど。」

見上げた空には、太陽が2つ浮かんでいた。

世界の終わりまで後、7日。

はじめてそのフレーズがテレビから流れた時、それはもう大騒ぎだった。
それを信じて全財産使う人とかかなりいたし、経済活動も一時期止まったから、本当に大変だった。
来年の教科書に「終末騒動パニック」として乗るらしい。
学校までの道を、俺たちは変わらずに歩く。

「世界の終わりまで後、7日か~。いつ終わるのかな~。」

「まあな~。」

「宇宙人もきたし、太陽も増えたし、ポールシフトも起きたし。今、何で7日前なの?」

「知らねえ~。」

世界の終わりは何度か迎えたが、結局は何も変わらなかった。

「たぶんさ~世界はとっくに滅んでるんだよ。」

俺は言った。
幼なじみは不思議そうだ。

「何で?生きてるじゃん?」

「生き残ったんだろ?ゴキブリみたいに。俺たちは。」

「マジで?」

「で、ゴキブリにさらに世界の終わりが来るんだけど、やっぱり生き残ってんだよ。しぶといから。」

「ヤバいね。」

「だから多分、何回終わりが来ても、残念ながら期待されるような事は何も起きなくて、俺たちは何も変わらない日々を送らないといけないんだよ。」

「嫌だな~早く世界、終わらないかな~。」

「ホントそれな。」

世界の終わりまで後、7日。

俺たちはいつも通り、学校までの道を歩いている。
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