文字数 1,675文字

 友達はあたしの事を「泣き虫バンシー」と呼ぶの。そう言われても仕方ない。だって、
自分でも気付かないうちに泣いてる時があるんだもん。引っ込み思案で中々話せなくて……。
いつからか話すのも怖くなっていたかな。それを思い出して泣いているのかな。……わか
らない。あぁ、また泣きそうになってきた。

 普段のあたしは誰にも見えない。見えるのは死期が近い人だけ。もうすぐ大事な人とお
別れをする人だけ。今日はあっち、明日はそっち。あたしが行くところではだいたい一人
はお別れをするの。悲しいけど……ごめんね。
 そんな時、真っ白い大きな建物の中で必死に本を読んでる男の子がいたの。なんだか難
しそうな本……本の名前はなんだろうと思って近づいたら、その男の子と目が合っちゃっ
た。
(ひっ!)
「うわっ!びっくりした!」
 (え、あたしが見えるの?)
「うん。え、空を飛んでるの?すごいなぁ!」
 男の子は目を輝かせながらあたしを見てた。不思議とあたしの容姿には驚かなかった。
「君、名前は何て言うの?」
(あたしの……?)
「うん!教えて!」
 言おうか迷ったけど、男の子の目がキラキラしていて……その、断るなんて……
(……バンシー)
「へぇ!バンシーって言うんだ。可愛いね」

ちくり

 今までに感じたことの無い胸のあたりの痛み……なんだろう。この気持ち。
「マコト君。そろそろ窓閉めるわよ。……今、誰かと話してた?」
「……え?うん。バンシーっていう女の子と話してたんだ」
「……?どこにいるの?」
「え?ここにいるよ」
 マコト君。そう呼ばれた男の子は窓の外にいるあたしを指さしていた。だけど、マコト
君を呼んだ女の人は首を傾げていた。
「今日は早めに消灯なさい。でないと先生に言いつけますからね」
「それは嫌だよ!……ここにいるのになぁ」
 女の人がいなくなってからマコト君にあたしの事を少し話した。死期が近い人だけが
見える……この世界からお別れをすること。
「……そうなんだ。やっぱりそうなんだ」
(やっぱり?どういうこと?)
「僕、実は数千人に一人の割合でかかる重い病気なんだって。元気になれるのは奇跡に近
いくらいなんだって先生が言ってた」
(そう……なんだ)
「でもね。僕は怖くないよ。だって、お母さんにもお父さんにも感謝してるし、友達だっ
て……」
 そういうマコト君の目にはうっすらと涙を浮かべていた。次第に肩も小刻みに動いて…
…声に出して泣いてた。あたしの泣いてる時とマコト君が泣いているのとではなにが違う
んだろう。ふとあたしは考えていた。
「ごめんね。変な顔見せちゃって」
(ううん。ねぇ……あたしのこと、こわくない?)
「? おかしな事聞くね。こわくなんかないよ。むしろかわいいと思う」
 言われた瞬間、耳の先まで熱くなる感覚がやってきた。は……はずかしいっ!
「よかったら、明日も一緒にお話してくれない?」
(えっ……あ、あたしと?)
「うん。ここでお話できたのも何かの縁だよね。もっと君とお話してみたいんだ。いいか
な?」
 初めて言われるその言葉が嬉しいやら恥ずかしいやらで気持ちがぐるぐるしてる……。
(う……うん。あたしでよかったら……)
「やったぁ!今日はもうお話できないのが残念だけど、また明日しようね」
 そう言って窓をカラカラとしめるマコト君。あたしが見えなくなるまで手を振ってくれ
た。あたしも小さく手を振り返しながら帰った。

 帰ってから友達に話したら、すごく驚かれた。あんたが可愛いだなんてだとか、また話
したいなんていう人がいるんだとか。あたしも最初はびっくりしたよ。あたしを見て怖が
らない人なんて……。今までずっと驚かれて怖がられてばっかりだったから、ああいう風
にされたら……。
 そうそう。友達にその男の子と目が合ったときに感じた、胸のことを話したら大声をあ
げてまた驚かれた。
 どうやら人間の世界でいう「恋」っていうんだって。もしかして……あたしがマコト君
に恋を……?
 友達はその子に告白しなさいよとか言ってきたけど……あたし……。勇気ないよ。あた
しのせいで誰かを不幸にしたくない……その気持ちがとても強かった。
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