第1話 なぜ男は女に決めた、のか

文字数 1,997文字

来世がわかるだの、神と対話が出来るなど、自分が出来ないことを普通にやってしまう女に対し、男はとても興味を持った。

何より、彼女の可憐なルックスに魅了されたのかもしれない。

あと、彼女の描く絵のタッチがとても好みだ。

彼女の容姿と作品のどちらが好きかと問われれば
「どちらも」
と答えるだろう。

二者択一など、人はなぜ求めるのか。

十者でも百者でも獲得可能なものはすべて受け取って行こう。

物を独占するのではなく、縁ある人々と分かち合うため。

自身の内から湧き出るものは惜しみなく、提供していこう。

それをもって、友愛と信頼が流通し溢れやまぬ邦を共に経営し繁栄し続けていくこと。

これが自分の実現することだ。

女も男も互いを運命・因縁・宿縁の相手と認める前にそれぞれショックというか挫折を負っていた。

女はプライドがとても高いように男からは見えたが、なんの気取りもなく正直な男に心を開いてくれたのか、自身の今までの決して幸福とはいえない恋愛のパターンを告白してくれた。

男はとても嬉しかった。

そのことが男を女に留まらせていたのか。

一方的にメッセージを送り、なんの返信もない状態が続いてあと3か月で丸2年となる。

あなたならどうするだろう。

そんな状況に耐えられるだろうか。

別の相手を探そうとはしないだろうか。

男は恋をしてもなぜか上手く行ったことがまったくない、というのが適切だ。

なぜかはわからないが、そういう星の下に生まれたのだろうと諦めていた。

多分、死ぬまで独り身でいるのだろうと想いこんでいた。

男は女に自分は現在でいう統合失調症に若い頃から罹患していると述べた。



彼女は「なんとなく知っていた」と返した。

そして、「海外は北海道、1番西に行ったのは大阪」と彼女に言ったら
「前世では世界中を飛び回っていたから、今世は落ち着いているんじゃない」
と彼は返されたが、まったく知らないことを言われたのでなんと返すのが適当かも思い浮かばなかった。

女は男に求められ、画家の話などを教えてくれたが、男にはとても面白くて楽しい内容だった。

彼女は嘗て、ウェブで小説を書いて結構なPV数をあげたという。

男は心から「凄い」と感嘆した。

そして、「純文学 ? 」と彼は女に尋ねた。

「なんだったんだろう‥‥」彼女が逡巡したので、すかさず、
「不純文学 ? 」と尋ね直した。

彼女は単純に語呂がおかしくて笑った。

彼の好みの絵は写真みたいに写実的なものではなく、絵らしい絵。

シャガールや棟方志功の作品のような。

彼女はパン屋さんから買ってきたパンをとても写実的に描き彼に見せた。


彼はとてもその絵のパンが美味しそうに見え、実物より彼女の描いたものの方が好ましく感じた。

彼女がそれをお店に持っていったら、店主さんは引き換えに沢山の美味しそうなパンをくれたという。

彼は吾が事のように喜んだ。



男はあまりにも不器用な自身を持て余していた。

適当な相手と軽くでも遊べるような自分だったらどんなによかっただろう。

幾らなんでも、2年近くも独白ばかりが続き、よく挫けたり、投げ出したりしないものだ、と自分のバカさ加減に呆れていた。

YouTubeなどで見るオラクルでは彼女も自分のことをとても想ってくれている。


そう励まされていなければ、今までこんなに根気は続いてなどいなかっただろう。

しかし、彼女が本当は自分のことをどう想ってくれているのかはまったくわからないし、確証などもあるはずもない。


だが、このような行程を歩む以外に自分は何が出来るだろう。

彼は今までの人生に於いていつも本物だけを求め続けてきた。

偽物をつかんでも多分心は飢渇するだけで、生きている意味などは感ずることは出来ないだろう。

だから、こんな年齢まで同居する異性などもいたこともなく生き続けてきた。

彼女が運命の相手でこれから多くの人々の範となる為や楽しい世界を一緒に創造していくのだと神託が告げるのを信じて生きていくこと以外、自分に何が出来るのか。

運命数1でかなり男っぽい女を運命数5の女性的なところも多分にある男はあくびをかきながら、文句を言いながら、ぼやきを呟きつつ、ずっと待ち続けている。

女は多分、今まで殆ど愛情表現などしてきたことはなかったのだろう。

そんなことはとても苦手そうに男からは見え感じられている。

彼女はとてもそんなことはしたとしても不器用で
「これが愛情表現 ? 」
と感じられるほど苦手そうに見える。

男にとって恋愛とは対等な相手とのみなされるもので、どちらが上でも下でも成立するものではない。

恋愛のみに限らず、男にとって人間関係は常に「魂に対する態度」であり、相手が年上だろうが年下だろうが、社会的地位が上だろうが下だろうが、経済的に裕福だろうが貧しかろうが、対等であり、相手に威張りたいとも威張られたい、ともまったく想わない。


男は女と嘗て1回だけテレビ電話で話したことがある。

男は女の元気な姿を切望している。
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