第1話 

文字数 1,782文字

『ほら!叩かないよ!!!』



また怒ってる。

私だって怒りたくはない。
外で怒ると、周りに見られるわ
周りに迷惑もかかるわ
買い物はできないわ
言っても聞かないから手を出すと
まあまあ可哀想にみたいな顔で見られたりもする。

なら、あなたが代わりに言うことを聞かせてください。と
思ってしまうほどに全く言う事をきかない我が子達。


泣くほど言わないと、聞いてくれない。
私の声なんて楽しくてショッピングモールで遊びながら走り回る
子供達には一ミリも聞こえちゃいない。

それが子供。
それが男の子。
それが兄弟だ。


ふと、ショッピングモールのガラスに自分の顔が映る。


自分でも見たことがないくらい
眉間にシワが寄っている。

こんな、眉間に綺麗にシワってよるもの?

というか、人間の顔って鬼みたいになるんだなと
ふと自分で感心してしまうくらい
怖い顔を子供達に向ける姿がうつっていた。

この怖い顔のままおばあちゃんになったらどうしよう…。



そんな事を考える間もなく、次男の鳴き声が響き渡る。



『うわああああああああああああん、ままあ!!
湊(みなと)が叩いたああああああああ!!!』


『違う!!海(うみ)が先に叩いた!!!!』


『もう、どっちも悪いでしょ!
ごめんなさいしなさい!!』


『でも先に叩いたもん!!!!!』



もう、わーった。わーった。

どっちが先に叩いたとかどうでもいいんよ。
はいはいはい。


男兄弟。
本当に、喧嘩が絶えない。
離れて遊んでくれ。お願いだ。

年子で可愛い盛りの我が子たちだが
3秒あれば喧嘩する。


上は6歳、下は5歳。
私は、シングルマザー。
ずっと1人で育ててきた。

大変だったが、成長していくにつれ
身の回りの事はほぼ、自分でできるようになったので
楽なことが増えてきた。


増えてきた反面の寂しさもない
と言ったら嘘になるが、成長は嬉しい。
母親の複雑な心境だ。


今では、一丁前にゲームなんかして
オンラインで対戦なんてして
最近の子は1人一台ゲーム機はどの子も持ってるし
外でもあんまり、遊ばず家でゲームばかりしてるのかなあ
でも、うちの子達は、外で遊ぶのは大好きだし、大丈夫かなと
ふと考える。

遅いお昼ご飯を済ませ、コーヒーを飲みながら
TikTokや、YouTubeを見る。

この時間が唯一の解放されてる私の自由時間。
好きな時間だ。

両手を大きく広げて背筋をそって伸びをし
ふと時計に目をやる。

14:03

あ、やばい。
幼稚園ってお迎え早いんだよなー

私は、シングルマザーだが、姉の協力もあり
夜働いて、それ以外は家に居るので
幼稚園に通わせている。

シングルって幼稚園行けるんだねー
ってよく言われるけど
最近は働くママも多いので幼稚園でも
延長保育(預かり保育)をしてる幼稚園は多い。


さて、いくか。


ソファーから立ち上がり、部屋着を素早く脱いで
Tシャツとスキニーパンツに着替えた。

玄関に向かう途中にふと横目に映るキッチン。
ん?

食器棚の引き出しになにか見えたような…

駆け足で玄関に向かう足を止め、引き出しに目をやると


“なぜここに。”


そんな事は多々ある。

なぜ引き出しの隙間に、ゲーム機が刺さっているのか、、、。

考えるだけ無駄だ。

子供のやる事なんて大人の想像を超えてくる。

はあ、、、
(ため息をつくと、寿命が…っと)
よくわからない事を呟きつつ

半分飛び出しているゲーム機を掴むと
落とさないように、引き出しをそっと開ける。

帰ったら、注意しなくては、、、

いつも優しい母親でいようと
怒らないようにと気をつけているのに
教育番組をつけると決まって
否定する言葉を使ってはだめだと
専門家の方が喋っているのをよく耳にし
気をつけようと思うが…
継続時間は、最初の5分が限界だ。

いまだに1時間も継続できたことはない。

考えるまもなく、子供は行動する。

言葉なんて選んでる暇もないのだ。

そして
今日はもう怒る要素ができてしまっている。

2度目のため息をつきそうになる。
(いかんいかん。)
制御し、自分に言い聞かせる。

ゲーム機を取った瞬間に
私の手が触れてゲームの画面が起動した。

あ、、、つけっぱなし。

また充電ない!って泣く癖に
3度目のため息はだめだめ!我慢して
電源を切ろうとボタンに触れ画面を開く。



ぱっと現れた名前を変更する設定画面。



名前  ままいつもありがとうだいすき




え?
急に瞼が熱くなると共に視界が歪む。


てか、名前じゃないじゃん。笑

ふと笑い、涙を手で拭うと

いつもよりも
全力で玄関から飛び出した。





<完結>



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