第1話

文字数 564文字

 紫乃羽衣

 春が近づくと窓の外を見たくなる。ふんわりと膨らむ黄色いカーテンがくらげのように揺れる。車が行き、人が歩き、雲が流れ、野球部の声がする。当たり前のことだけれど、街には人がいる。人がいて、暮らしている。僕には見えない世界で。その人が生きているかはわからない。わからなくても、少なくとも僕の目の前にいる時には生きている。目の前にいないときにはわからない。わからないけれど、街があって、そこには人が生きているのだと思うとなんともいえない気持ちになる。

 人

 生きる街

 文学

 日本の近代化はいささか特殊であった。これが与えたとされる影響は大きい。文学に少しでも触れたことがあるならば、そのことは常にどこかにある。お前はこうだぞ、と言われて、己はこんなものなのかと思う。お前は何者だと急に問われる。己とはなんだ。今なお近代からの脱出は図れないものか。

 文字に触れて戯れて、学にするのは高等遊民の特権だった。それがいつの日からか多くの人が持ち始める娯楽へと変わっていった。いや、もともと娯楽ではあった。しかし、金がなければ生きてはゆけぬ。そうかといって、信念を折り曲げることもできぬ。第一、届けることが難しい。ところが、近年の技術の発展は目を見張るものがある。誰もが発信者となる時代になった。誰に構われるわけでもない。自分の発想を。
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