第1話

文字数 689文字

 仕事が終わり帰宅したのは24時過ぎ。忙しすぎて存在さえ忘れていた携帯を開くと、そこには一件のメールが届いていた。懐かしい、高校の時に付き合っていた人からのメールだった。

 「結婚するの」
 
 そのシンプルな一文を理解するのにしばらく時間がかかったが、思えば付き合っていたのはもう何年も前の話だ。今はお互い社会人だし、結婚をするのだって別に不思議じゃないと自分を納得させる。

 そうか、結婚するのか

 そう頭の中でつぶやいた瞬間、忘れていたはずの思い出が走馬灯のように蘇る。なんで別れてしまったのか不思議なくらいたくさんのことを思い出した。その中でも、決して性格が明るいわけではなかった僕に君が、「そのくらいが1番信用できる」と言ったことを1番最初に思い出した。
 
 そんな優しかった君のことを忘れるため、大学に入ってからはとにかく遊んだ。勉強もそこそこに、飲み会や合コンで、君以上の人を探すのに時間を使った。でも、そんな人は見つからなかったよ。無理に明るく振る舞ったのが悪かったのかな?
 
 就職してしばらくして開かれた高校の同窓会で、君が欠席だと聞いた時、残念だと思うのと同じくらい「よかった」と安心した。あの頃から成長していない自分を見せなくていいと思ったから。

 そんなどうしようもない僕だけど、最近前を向けるような事があったんだ。ある人に君に言われたことを全く同じことを言われたんだよ。ありのままの僕を認めてくれる人がいたんだ。

 高校のとき仲良かった子が、結婚するんだって

 24時50分、明日休みだからと缶ビールを飲みながら言うと、その人は振り向いて、そうなんだって微笑んでくれた。
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