第１話
文字数 1,998文字
誰も最初に喋りたくなさそうやから、俺から言いますよ。トラ、二十七歳、たこ焼き屋やってます。姉貴が入籍するんで、祝い金を稼ぎにきました。
俺、親の顔覚えてませんねん。親父は俺が生まれる前に逃げてしもて、お袋は頭がちょっと弱かったんですわ。前の男との間にできた姉貴は婆さんが育てて、俺は姉貴に育ててもろて、親父の次の男との間にできた妹を死産したときに、お袋も一緒に死んでしまいました。ちょっとややこしいですか？ 兄弟みんな親父が違うけど、みんなお袋を胎まして逃げました。どいつもこいつもクズですわ。お袋と妹は死にました。お袋は早く死んでかえってよかったと思います。
姉貴は十才上で看護師をしています。俺みたいな生まれたときからチンピラの弟の面倒を見ていたから婚期も遅れて、それでも真面目に生きてたことに気付いてくれた心優しい旦那さんを見つけました。俺はお祝いだけ渡して、あとは迷惑にならんようそっと離れて生きていこうと思います。まだまだ話は尽きませんが、次の方、どうぞ。
で、では、私が次に話をさせていただきます。ハンドルネームは、ぽよりん、三十八歳、独身で自宅で老母と暮らしています。親父は三年前に亡くなりました。Ｆラン大学を出て、中小企業の経理をして、老母が亡くなったあとも定年まで働いて、実家と共にひっそりと朽ち果てていく人生です。すみません、マスクが暑くて、ちょっと下から汗を拭かせてください。
実は、白状すると、結婚したい子がいるのです。二十一歳です。水商売なんですが、一千万貯めたらお店を辞めて、トリマーの店を持ちたいと。それで相談に乗ってあげるために店に通ってたんですが、彼女みたいな真面目な子は指名も少ない。私も出来るだけプッシュして、一年でなんとかベスト３に入るレベルになりました。いずれ結婚しようね、なんて話も出て来ました。こんな若くて可愛い子と結婚なんて、夢みたいな話です。
でもね、貯金は使い果たしました。結構高いキャバクラなんです、他の店は知りませんが。一年間ずっと毎月五十万もの請求があって、イベントごとに百万近く払ってたら、破綻しますよね。会社のお金も少々つまんでしまって、あとは行けるとこまで行くしかないと、今はそういう心境です。ハイ。
ぽよりんさんの気持ちに水を差すみたいで悪いけど、その子、脈はないと思うなあ。あ、ごめんね。俺、人間心理勉強してて、セミナーとか行くんだけど、キャバ嬢もよく来てるよ。お客さん洗脳していく手口聞いたけど、彼女たち巧妙だよ。
自己紹介、江口、三十二歳、経営者になるための勉強中。あと一回プラチナセミナーに参加したら、マスターからセミナー権暖簾分けしてもらえるらしいので。そのプラチナが最後の難関というか、誰も高度過ぎてついていけないんだよね。脱落者をたっくさん見送ってきた。俺はもちろん最初から想定内だったから、オールオッケー。でもここまで数千万、デイトレで稼いだ金みんな注いでも、まだプラチナに足りないんだよね。実は親には泣かれてる。あ、ネガティブな言葉はダメ。ポジティブでここまで来られたんだからね。というわけで、今日もポジティブに成功しますように。どぞ、次の方。
あ、なんか、すみません。もう時間ないですね。ＪＫ、二十二歳です。僕は、これがいわゆる闇バイトっていうの知らなくて、いきなり携帯取られて車で運ばれてここにいるんですが、説明書読んだ感じでは誰も死なず成功すれば、それにこしたことはないです。
トラさん、武力担当ですが、極力使わずにいきましょう。頭を殴るのはご法度です。目撃者が出ても僕たちこの通りゴムマスクを被ってます。せいぜいバットで足を払いガムテープで手と口を押える程度で十分です。トラさんが真面目な人だっていうのはお姉さんでわかります。
ぽよりんさん、金庫を開けるのに緊張しないよう、ここにあるのど飴を口に入れておきましょう。キャバ嬢が仮に営業での付き合いでも、ぽよりんさんにとって夢のような時間の価値は変わらないと、僕は思います。ただ、会社からつまんだ金を返す、そこが目的です。
江口さん、プラチナに来るまで頑張ったんですね。ほかの人は脱落していく中で、よく踏ん張ったじゃないですか。ポジティブは大変いいことですが、今日は慎重に見張りをお願いします。僕たちの命運は江口さんにかかっています。
いいですか。僕たちの仕事は二階の寝室の奥の金庫から、一億の金を抜いてくることだけです。殺人者になる必要はないし、本当に悪い首謀者は僕たちじゃない。人間としてのプライドを持って、やり遂げましょう。
僕は正直、勉強ばかりやってて友達とかいないし人生に執着もないけど、今日の皆さんの自己紹介を聞いて、もっと人生知りたくなったし、なんとかこのあと、皆さんと一緒にあったかい朝ごはんが食べたいと思いました。
では、行きましょう！
俺、親の顔覚えてませんねん。親父は俺が生まれる前に逃げてしもて、お袋は頭がちょっと弱かったんですわ。前の男との間にできた姉貴は婆さんが育てて、俺は姉貴に育ててもろて、親父の次の男との間にできた妹を死産したときに、お袋も一緒に死んでしまいました。ちょっとややこしいですか？ 兄弟みんな親父が違うけど、みんなお袋を胎まして逃げました。どいつもこいつもクズですわ。お袋と妹は死にました。お袋は早く死んでかえってよかったと思います。
姉貴は十才上で看護師をしています。俺みたいな生まれたときからチンピラの弟の面倒を見ていたから婚期も遅れて、それでも真面目に生きてたことに気付いてくれた心優しい旦那さんを見つけました。俺はお祝いだけ渡して、あとは迷惑にならんようそっと離れて生きていこうと思います。まだまだ話は尽きませんが、次の方、どうぞ。
で、では、私が次に話をさせていただきます。ハンドルネームは、ぽよりん、三十八歳、独身で自宅で老母と暮らしています。親父は三年前に亡くなりました。Ｆラン大学を出て、中小企業の経理をして、老母が亡くなったあとも定年まで働いて、実家と共にひっそりと朽ち果てていく人生です。すみません、マスクが暑くて、ちょっと下から汗を拭かせてください。
実は、白状すると、結婚したい子がいるのです。二十一歳です。水商売なんですが、一千万貯めたらお店を辞めて、トリマーの店を持ちたいと。それで相談に乗ってあげるために店に通ってたんですが、彼女みたいな真面目な子は指名も少ない。私も出来るだけプッシュして、一年でなんとかベスト３に入るレベルになりました。いずれ結婚しようね、なんて話も出て来ました。こんな若くて可愛い子と結婚なんて、夢みたいな話です。
でもね、貯金は使い果たしました。結構高いキャバクラなんです、他の店は知りませんが。一年間ずっと毎月五十万もの請求があって、イベントごとに百万近く払ってたら、破綻しますよね。会社のお金も少々つまんでしまって、あとは行けるとこまで行くしかないと、今はそういう心境です。ハイ。
ぽよりんさんの気持ちに水を差すみたいで悪いけど、その子、脈はないと思うなあ。あ、ごめんね。俺、人間心理勉強してて、セミナーとか行くんだけど、キャバ嬢もよく来てるよ。お客さん洗脳していく手口聞いたけど、彼女たち巧妙だよ。
自己紹介、江口、三十二歳、経営者になるための勉強中。あと一回プラチナセミナーに参加したら、マスターからセミナー権暖簾分けしてもらえるらしいので。そのプラチナが最後の難関というか、誰も高度過ぎてついていけないんだよね。脱落者をたっくさん見送ってきた。俺はもちろん最初から想定内だったから、オールオッケー。でもここまで数千万、デイトレで稼いだ金みんな注いでも、まだプラチナに足りないんだよね。実は親には泣かれてる。あ、ネガティブな言葉はダメ。ポジティブでここまで来られたんだからね。というわけで、今日もポジティブに成功しますように。どぞ、次の方。
あ、なんか、すみません。もう時間ないですね。ＪＫ、二十二歳です。僕は、これがいわゆる闇バイトっていうの知らなくて、いきなり携帯取られて車で運ばれてここにいるんですが、説明書読んだ感じでは誰も死なず成功すれば、それにこしたことはないです。
トラさん、武力担当ですが、極力使わずにいきましょう。頭を殴るのはご法度です。目撃者が出ても僕たちこの通りゴムマスクを被ってます。せいぜいバットで足を払いガムテープで手と口を押える程度で十分です。トラさんが真面目な人だっていうのはお姉さんでわかります。
ぽよりんさん、金庫を開けるのに緊張しないよう、ここにあるのど飴を口に入れておきましょう。キャバ嬢が仮に営業での付き合いでも、ぽよりんさんにとって夢のような時間の価値は変わらないと、僕は思います。ただ、会社からつまんだ金を返す、そこが目的です。
江口さん、プラチナに来るまで頑張ったんですね。ほかの人は脱落していく中で、よく踏ん張ったじゃないですか。ポジティブは大変いいことですが、今日は慎重に見張りをお願いします。僕たちの命運は江口さんにかかっています。
いいですか。僕たちの仕事は二階の寝室の奥の金庫から、一億の金を抜いてくることだけです。殺人者になる必要はないし、本当に悪い首謀者は僕たちじゃない。人間としてのプライドを持って、やり遂げましょう。
僕は正直、勉強ばかりやってて友達とかいないし人生に執着もないけど、今日の皆さんの自己紹介を聞いて、もっと人生知りたくなったし、なんとかこのあと、皆さんと一緒にあったかい朝ごはんが食べたいと思いました。
では、行きましょう！
