第1話

文字数 1,059文字

 テーマソング                   

 自転車を漕いでいると、思わず口ずさんでしまう曲がある。「おお牧場は緑」である。
♪おお、牧場は緑。草の海、風が吹くよ。おお、牧場は緑。よく茂ったものだ、ホイ!
 その後の歌詞はよく分からないのでハミングだけになり、終わりのほうでまた少し復活して、呼びかけるよ、私に、ホイ!と締めくくる。
この曲を歌うとなぜか気分爽快になる。このホイ!というのが効いているらしい。なぜここでホイを入れた、と少し不思議に思う気持ちもある。なげやりというか、ヤケになったのかもしれない。何がホイだ、と思いながらもエンドレスで歌う。
 調べてみたら、なんとチェコスロバキア民謡であった。日本の小学校の唱歌だろうとなんとなく思っていたので、少し驚いた。おまけに歌詞が三番まである。おお、牧場は緑、が、二番は、おお、聞け歌の声、になり、三番では、おお、仕事は愉快、になる。おそらくチェコスロバキアの人達は、この歌を口ずさみながら屋外の仕事に励んだのだろう。
 三番の歌詞は、働く人を鼓舞するような内容になっている。
♪おお、仕事は愉快。山のように積み上げろ。おお仕事は愉快。みな冬のためだ、ホイ!
 みな冬のためだ、というところから、チェコスロバキアの厳しく寒い冬が想像される。おそらく冬のあいだは外で働けず、家に閉じ込められてしまうので、内職をしたり編み物をしたりするのだろう。日があまり当たらなくて、気分も暗くなりがちだが、ホイ!と言うことで、自分を精一杯景気づけているのだ。このホイ!がなかったら、私も自転車を漕ぐ際に口ずさまなかったかもしれない。
 やはり好きなのは一番の歌詞である。子供の頃から馴染んでいるというのもあるが、自然と映像が浮かぶところが良い。草の海、風が吹くよ、というところにくると、まるで自分が鳥になって、原っぱすれすれを勢いよく低空飛行しているような気分になる。細い草がふぁさーっと一斉になびく光景が目に浮かぶ。
そんな牧場を、少し離れた高台からしみじみと眺めている農夫がいる。
「よく茂ったものだ……」
客観的な視点である農夫の呟きを入れたところで、なぜかいきなり私達は、ホイ!と突き放される。もしかすると、農夫が「ホイ!」と言いながら足元に転がっていた石でも蹴ったのかもしれない。
いずれにせよ、なんとも小気味良い、あっけらかんとした曲で、自転車を漕ぐペダルにもリズムがつく。より軽快に走れる気がするので、これからもサイクリングのテーマソングとして末長く歌っていこうと思っている。 
 
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