本物の自分

文字数 1,066文字

 最低な人間だ、俺は・・・・・・
 去っていく親友の後姿を、俺は何もせずにずっと見つめていた。もはや追うこともなければ、大声で呼び戻そうなんてする気もない。たとえそんなことをしたとしても、彼はすべてを無視していずれ俺の視界から消えることになる。未練も感じてなさそうに歩いていっているのが、それを示唆している。
 親友は正しい人間だ。俺を見捨てるのは決して間違った決断ではない。
 これまでも、俺はまさしく「虚偽」に塗り固められたような醜い人生を送ってきた。俗にいう「本当の自分」というのが自分でもわからなくなってしまうほど。ある時には俺は極悪人になり、ある人の前では天使となり、ある場面では「正直者の好青年」を演じたが、この中で「本当の自分」とやらはどれだろう?
 どれも自分だ。でも、どれも自分ではない・・・・・・

 「終わったな」

 親友の姿が影すらも見えなくなると、俺は低い声でつぶやいた。すぐ隣では川が流れているから、その流れの音がそれを即座にかき消す。近くでは子供らが野球かなんかをして遊んでいたから、その声は余計、意味のないものになった。
 虚偽の人間は運命にも気に入られていないようだ。
 と、いう感じでこの川辺の公園では僕の居場所はない気がしたので、黙って、自分のマンションに帰ることに決めた。日も落ち始めていたころだから、ちょうどいいタイミングではあっただろう。

 自慢ではないが、俺は頭はまあまあだが、物事はちゃんとこなすタイプなので、ある程度稼いでいる。だから、住んでいるマンションは良物件で、部屋は広く、暮らしやすい。
 ソファーに座って、テレビをつけた。まあ別に面白い番組があるわけでもないが、こうしてなんらかの音をつけておかないと孤独感が増す。結婚もする気もないからずっとこんな生活だろう。
 そして、スマホのlineを開いて、通知を確かめた。業務連絡、食事の誘い、いつ入れたか分からないような店舗の宣伝、数多くある中で、ひとつ無になっているのがあった。今日絶縁した親友だ・・・・・・

 この世の中、というか人間社会、ぶっちゃけ言うとちょろい人にはちょろい。結局、損得、需要供給、コネで回っているから、やりようによってはどうとでもなる。逆に、それを理解せず、真っ当であろうとする親友のような人間は、なかなか成功しにくいだろう。
 俺はそうはなりたくないから、人付き合いを勉強して、うまく自分を偽ってきた。

 だが、何故だろう。どうもむなしい。

 まあ、そうも言ってられないから、俺は明日からまた嘘にまみれた自分を生きる。

 
 
 
 
 

 
 
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