第1話

文字数 3,997文字

許せなかった。何一つ許せなかった。
この世を構成する何か。その全てが。




夏、台風による強風にさらされる僕を人類たち
は誰もみない。
秋、紅葉ばかりに気を取られ人類は僕の存在に気がつかない。
冬、雪が冷たい。人類はクリスマスで楽しそう。お正月に忙しそう。僕を見つめては舌打ちをする。
ようやく春、僕は2週間だけ注目を浴びる。

きっと桜はこんなことを考えているのだろう。
私は桜が嫌いだった。だってそうだろう。たった2週間だぞ。たった2週間のために1年間耐えて、耐えて、耐えて、花を咲かせる。きれいな花だ。きれいな花。それなのになんの躊躇もなく、潔く散っていく。
そして、しばらくすれば何事もなかったかのように新緑を添えまた佇む。
桜を前に何を思ったらいいのかわからなかった。お酒ものめなかったし、きれいだよ、なんて他の人類に何千、何万回と言われたであろう言葉は吐かなかった。
だから私は手紙を書くことにしよう。

桜へ

精一杯咲いているよね。精一杯って言葉あなたは好きじゃないかしら。
どうしてあなたはそんなにお強いの。
あなたがね、もし自分のことが大嫌いで、あなたがあなたに生まれたことを恨んでいたなら私はあなたを許します。
人類のことが大嫌いで、それでいて見下し方なんかがお上手だったら私はあなたを許します。
これは私の気まぐれです。あなたが散っていく姿を見ていたら寂しくなってしまったの。悲しいなんて思えなかったよ。だってあなたは少しも悲しそうじゃなかったからね。だからこそ寂しかったの。
あなたの気まぐれに付き合わされるこっちの身にもなれってそんなに笑っておっしゃらないで。
許されなくても結構だってほほえまないで。
これ以上、あなたは一人でも生きていけるなんて聴きたくない。
私はあなたの正しさが好きです。
許さないのは許したいからなんでしょうか。
ねぇ、お願いだから私があなたの事を許してるってみぬかないで。
お元気でね。


午前3時06分

毎日寝れていなかった。眠りたかった。眠りたくなかった。まだ、外は肌寒い。こたつに入りコーヒーを啜る。少し大人になりたかった。少なくとも大人の振りが上手にできるくらいに私は大人だったんだと思う。先日友人に『俺、大人になったと思うんだよね。』と言われた。『どんなところが』と問うと『つまらない人間になったから。』と返答された。多分、この友人は強い。強いから簡単に大人になった、つまらなくなった、なんて言葉の羅列を他人に吐けるのだろう。午前3時06分が嫌いだった。嫌いであることを真正面から言える私じゃないから手紙を書こうと思う。

午前3時06分へ

午前3時06分。
なんて大人の響きかしら。だからこそ私はあなたが嫌いです。好きだと言われるのと嫌いだと言われるのどちらが傷つきますか。どちらも傷つきますよね。ごめんなさい。
どうかお許しください。私は、私が嫌いなんです。こういう言葉を吐かないと私を保てないのです。
もしあなたがそんな私を嘲笑ってくださったら、人類があなたとともにダンスでもしていたら、私はあなたを許します。
もしあなたとともに幽霊でさえ涙を流していたら、あなたと海がいつもと違う温度であったとしたら私はあなたの許します。
許さないって言葉、冷たいようで温かくないですか。温度を持つ言葉が私は好きです。綺麗ですよね。
お願いだから、私を肯定しないでください。どうせ本当はとっくに私のこと許しているんでしょ。そんな言葉を吐かないでください。
私はあなたがちょっと好きです。
お元気でね。


織姫と彦星。

月が好きだった。
星が好きだった。
だけど七夕は嫌いだった。
愛の正しさなんかを突きつけられる気がするだろうか。純粋に空を見上げるという態度が美しいことを知りすぎていたからだろうか。
身体以外が完全に死ぬ。そんな景色があると信じている。
魂は抜けきり、その景色にとどまり、帰ってきてはくれない。
私の魂は天の川。織姫と彦星が出会う場所。そこに留まったまま帰って来てくれないの。
だから2人に手紙を書くね。

織姫と彦星へ

一年に一度しか会えないあなたたちが嫌いです。だけど、少し羨ましいです。一年に一度だって決められていること少し心地よくありませんか。
彦星は織姫に会うまでにどんな星を見たかというお話はされるんですか。
織姫は彦星に会うまでに思い出した香水の話はされますか。
人類は勝手にお願い事をあなた方に託します。でもお気になさらないでね。彦星は織姫に、織姫は彦星に会うことだけを考えればそれで大丈夫です。
その日の夜が少しだけでも長かったらいいなと願ってやみません。
彦星が織姫にあって何の言葉も発することができず、ただ大笑いし、最後にちょっとだけ泣いていたら私は彦星を許します。
織姫が彦星に内緒で名前のない星に誰にも教えられない名前をつけていたら私は織姫を許します。
あなた方にとって私に許される、許されないなんてどうでもいいですよね。
だからあなた方は素敵です。
勝手に少し許させてください。
お元気で。


赤色のマフラー

赤いコートは着られなかった。赤の折り紙は使うことを阻んでた。そんな人間なの、私。
大切な友人が赤いマフラーをつけていた。少し遅れて待ち合わせの場所に来た。その友人が死んだ。死んでしまったの。
もう2度と会えないんだって。
その友人とね、よく手紙を交換していたの。あの子がかっこいいとか、あの食べ物を食べてみたいとか、そんなくだらない話だったわ。よく電話もした。気づいたらふたりとも寝てしまって朝を迎えたね。その友人が言っていた『自分の神様は自分だし、自分の神様が自分であるかぎり考えることはやめちゃいけないんだよ』って言葉は忘れないし、ずっと好きだよ。
悲しいから手紙を書くわ。

赤色のマフラーへ

正直言って素敵ですよ。だけどね、気にくわない。オーラがすごい。あなた色を選べる人間を私は尊敬します。あなたは殺気に満ち溢れています。あなたをみると目眩がするのです。眩しすぎて直視できないのです。正しさに吐き気を覚えるのです。ごめんなさいね、弱い人間で。
昔、あなたで自殺を試みたことがあるの。しんじゃいたかった。くるしかったの。だけどね、あなたはそれを許さなかった。自殺する人間は独りよがりの自慰行為をしているだけだっていいはなったゆうじんがいたよ。
あなたもそう思うかしら。
世の中って辛かったりするの。
みんなそうやって生きてたりするの。
もし、あなたがあなたの事を直視できないのなら私はあなたを許します。
もし、あなたが自ら放つ色を知らなかったなら私はあなたを許します。
許す、許さない、もうどうでもよくなってきちゃったよ。これはさ、愛なんだけど気づいていたりするのかな。
どうでもいいか。お元気でね。

街灯

夜の散歩が好きだった。イヤホンをつけ散歩に出かける。夜の公園が好きだった。夜の海辺が好きだった。たまには缶ビールでも買って歩こうかしら。苦い。まだ、その味は好みではなくて、それが寂しくて音楽の音量を上げたわ。少しだけ強くなれた気がしたの。道の真ん中を歩いてみる。どうか後ろからぶっ飛ばされますように。
アパートの光。大学の光。車の光。コンビニの光。街灯の光。
どれから許したらいいの。
ねぇ、いつになったら私を救ってくれるの。
もう書くことでしか救われないの。

街灯へ

誰のことを照らしているの。何を思ってそこにいるの。
あなたはいつからここにいるの。
この街に来てもうじき3年になります。この街のね、迷い方さえわからなくなってしまったわ。迷子にさせてほしいの。だけど、もう迷子にすらなれないの。どうしたらいい。
中学生の頃ね、初めて香水を買ってみたの。500円の香水。コットンキャンディっていう甘ったるいだけの匂い。その時は、その匂いがたまらなくすきだったのね。もう忘れてしまったんだけど、不意にあなたの下を通るとき思い出すの。思い出してしまうの。なんでかしら。きっとあなたの下でその香水をつけて大切な友人を待っていたことがあるからかな。来なかったんだけどね。あなたが放つ粒子はいつも優しく肩に触ってくださります。頭を撫でてくださります。
もし、あなたが夜中一人で消えてみたりしたら私はあなたを許します。
もし、あなたが泣くふりよりも笑うふりの方がお上手だったら私はあなたを許します。
ね、もう許すよ。
お元気で。




許せなかった、本当に許せないもの、憎むべきであるものはどこにあるの。
ねぇ、お前はどこにいるの。
なんでそんなに寂しいの。なんで悲しそうなの。なんで1人でいるの。教えて。どうして。
孤独であることに何を見出すの。人間は結局1人だって笑ってるけど、その答えは寂しすぎないかしら。え、だまれって?聞こえないわ。もっともっと声を出せ。書け。吐け。綴れ。

私へ

許せないものは見つかりましたか。
見つからないままですか。
許せないものを見つけられない自分が許せなかったりするのですか。
もしあなたが許せないものを見つけられないままで笑ったり、泣いたりしていたら私は私を許します。
もしあなたが、それでも生きている選択を続けていたら私は私を許します。
もういいんじゃないですか。思ったより物事はシンプルだって聞いたことがあります。
少しのことに心を動かして、毎日を生きていたらそれでいいんじゃないですか。
もっと笑ったらいいんじゃないですか。泣いたらいいんじゃないですか。
ここにいるって叫び続けたらいいんじゃないですか。
生きていたらいいんじゃないですか。
私、そんなあなたちょっと好きです。
お元気で。
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