第1話

文字数 776文字

私の事を、両刀使いという者たちがいる。

それは間違いだ。

確かに、女性だけでなく、男を相手にする時もある。

だが、それが私の仕事なのだから仕方ない。

結果として、たまたまそうなっただけだ。

ほんの一時だけの付き合い。

みんなそうだったよ。

だから、誤解しないでおくれ。

そんな事より、今日の君は美しい。

その質素な白いドレスは、いつもの豪奢できらびやかな衣装より合っている。

いや、舞踏会での君の素晴らしさを貶める訳ではない。

白い広い宮殿の中、君の衣装と宝石は何よりも素敵で目立っていた。

まるで、天使の後光を君が背負っているかのようだった。

君はいつも流行の最先端にいて、実際、多くの女性たちが服装や髪形を模倣したよね。

君の総て、何もかもが素晴らしい。

ただ、君は運がなかったんだね。

君のような美貌と無垢さだけで、問題なかったんだ。

時代が悪く、あの男を選んだため、こういう結果になった。

君のせいじゃない。

さあ、怖がらないでこちらにおいで。

君に、早く触れたいんだ。

人が見てるって?

恥ずかしいのかい?

これもまた、楽しいじゃないか。

見られる事には慣れているだろう?

いや、反対に好きだろう?

いつも人々の注目を浴びて、笑みを浮かべていたろう?

ほら、前をご覧!

こんなに沢山の人が来ているじゃないか。

彼らも興奮しているよ!

「早く死ね!」

「地獄へ落ちろ、豚女王!」

「パンがないならケーキを食べればいいだと!?」

まあいい、彼らの事は放っておこう。

やっと、君と一緒になれる。

震えているのかい?かわいいね。

さあ、マリー、私に身をゆだねて。

やっとこの瞬間が来た。

君の白い首筋にキスをするよ。

*********

フランス革命が勃発した日から四年余りが過ぎていた。

公開処刑を見ようと集まったパリ市民たちは、その時を今か今かと待ちわびていた。

ギロチンが、マリー・アントワネットの首を一刀のもとに切り落とした。
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