悪夢!!「表現の自由」庁長官による百合同人誌弾圧!!

文字数 2,067文字

「あの……ここで、長官が漫画家だった頃の……」
「いや、私は、まだ漫画家のつもりだよ」
 私は、文化庁から独立したコンテンツ産業庁内の会議室で、編集者にそう答えた。
 そう、私こそが、このコンテンツ産業庁の初代長官だ。
「はい……じゃあ、この打ち合わせの間は、長官じゃなくて先生とお呼びした方が良いでしょうか?」
「ああ、そうだね」
 「マンガ・アニメ表現の自由」を公約に与党から出馬した私は、政治家になって1期目にして、このコンテンツ産業庁の長官になれた。
「それで、先生が〇〇(ゼロゼロ)年代に描かれた『魔法女子校しゃぶしゃぶ』がSNS上で再評価されてるようでして、再販をする事になりました」
 当時のハ○ー・ポッ○ーのブームに乗った魔法学校ものだ。売り文句は「ヒロイン五〇人」……もっとも五〇人の大半はアシスタントに考えさせたもので、人気が無かったヒロインはどんどん切っていったが。
 秋■康はA■Bのコンセプトを思い付いた時に、きっと私のマンガを参考にしたに違いあるまい。
「で、再販版の表紙は、先生に新たに()き下ろしていただきたいのですが……」
「へえ、どのキャラの絵だい?」
「今、SNSで人気が有るのは、この()達ですね」
 えっ? 待て……こんなキャラ居たっけ? あれ? 人気が無くて、早々に切った奴らばかりだ……。

 どうなってるんだ? と思ってネットで検索すると……。
 検索サイトのサジェスチョンで出たのが「男なんていらない」。
 いや、待て。
 主人公が男性教師のハーレムものだぞ。
 何で、そんな漫画の事を検索しようとしたら、サジェスチョンで「男なんていらない」なんて出る?
 おかしい、おかしい、絶対におかしい。

「あの……何で長官の個人的な問題を調べるのに職員を使うんですか?」
 調査を命じていた部下は、私の執務室に入るなり、冷たい目付きと口調で、ヒステリックに非論理的なクレームをがなり立てやがった。
「何を言っている。これは表現の自由を護る為の重要な任務だ。で、何か判ったのか?」
「はい。ま○だ○けと駿×屋の秋葉原支店で見付けました」
 そう言って部下が鞄から出したのは……。
「何だこれは?」
「長官が漫画家だった頃に描かれた作品の2次創作同人誌ですが。この前のコミケでは……売上トップ二〇に入るサークルだったようです」
「このタイトルは何だ?」
「失礼ですが、識字障害か何かで?」
「あのな……」
「判りました。この同人誌のタイトルを読み上げます『男なんていらない』」
「ふざけるな。何で、男の教師が主人公のハーレム漫画の2次創作がそんなタイトルになる?」
「えっと……個人的な意見を言わせてもらっていいでしょうか?」
「何だ?」
「すいません、私、年頃の娘が居るので、男性教師が女子生徒に手を出す漫画なんて、ぞっとします。長官のあの作品は、今の私にとっては萌えじゃなくてホラーです」
「き……貴様……私の部下でありながら、表現の自由の敵だったのかッ⁉」
「批判も表現の一種だと思いますが……その……」
「まあいい。そもそも、この同人誌の内容は何だ?」
「いわゆる『百合』ですが」
「お前、男性教師が女子生徒に手を出す話はNGで、百合はいいのかッ⁉」
「えっと……何て言いますか……ウチの娘には()()()()()()()が居まして……親としても何も問題ないと思ってまして……」
「うるさい。お前のような表現の自由の敵は馘だッ‼」

 それから戦いは3年に渡り続いた。
 あのクソ同人誌の内容は……俺のマンガの不人気キャラどもが女同士で幸せに暮す、と云う元になった俺の漫画のコンセプトを全否定するものだった。
 ふざけるな。
 あんな同人誌が売れてる世界は間違っている。この俺が狂った世界を正さねばならない。
 俺の漫画の不人気キャラ達の百合同人誌を描いた同人作家は、税務署と警察に手を回して、我ながら無理筋の脱税容疑と……何だったかは良く覚えていないが、ともかく別件で逮捕して、今、留置所に居る。
 そして、自分なりに調査した結果、百合はフェミニズムやポリコレに利用されかねないと云う結論を出さざるを得なかった。
 俺はコミケを国営にした上で、コミケや同人誌ショップで売られる同人誌を厳しく検閲する法案を国会に提出し……与党の賛成多数で法案は通った。
 言うまでもなく、表現の自由の為なら、検閲も許される。
 同人誌検閲を行なうメンバーは……もし同人誌作家どもに選ばせると、百合に肯定的なクソ野郎が紛れ込むかも知れないので、コンテンツ産業庁で選定する事にした。
 やむを得ず検閲を行なうのなら……その検閲は民間でなく行政が行なうべきだ。そして、検閲を行なうメンバーは、その業界の者に選ばせてはならない。
 仕方ないのだ。
 表現者達の中にも、フェミニズムやポリコレのような思想に毒されている者達が居る。
 我々が彼等を導かねばならない。
 繰り返すが……表現の自由の為ならば、行政が表現や思想を統制する事も許される筈だ。
 全ては表現の自由の為に……その為なら、表現者を自称する「表現の自由の敵」が何人野垂れ死のうが……知った事か。
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