恐竜さん、さようなら

文字数 1,150文字

 まっくらな宇宙で、たよりになるのは遥か彼方にある星々の光だけ。
 そんな空間を、一人さびしく飛びつづける星の子コリン。
 コリンは遠い昔、遠い宇宙に暮らす宇宙人が、願いをたくして宇宙に放った流れ星なのです。
 そんな星の子コリンがようやく生命のいる星に近づきました。
 
    *

「今夜は空がとってもきれい」

 ミミの言葉を聞いて、弟のミルも巣穴から顔を出しました。

「本当だ。星座がやけにはっきり見えるね」

 ミミとミルは地球に暮らす恐竜の姉弟です。時代は今より気の遠くなるほど昔の話です。

「あっ、流れ星」

 ミミが見た先を、あわててミルも目で追います。

「お姉ちゃん、何を願った?」

 ミルの問いにミミが答えます。

「わたしはもちろん地球の平和よ。それしかないでしょ?」

「ふーん。ぼくは『マンガ家になりたい』って祈ったよ」

「マンガ家? 何それ」

「ぼくもよくわからないけれど、器用な手を持っていてね、なんだか面白い話を絵に描くんだ。今朝、夢で見たんだよ」

「ミルはあいかわらず想像力がたくましい夢を見るのね」

「それで気づいたんだけれどね、ぼくらの暮らすこの世界は小説、しかもその中でも童話っていう世界じゃないかと思うのさ」

「小説? 童話?」

「うん。これは昨日の朝見た夢なんだけれどね、『字』というものだけが並んでいるのに、それだけで世界が、物語が、形作られてしまうんだよ」

 この二頭の恐竜の会話を、星の子コリンもしっかりと聞いていました。

「これはぼくを宇宙に放った、あの宇宙人さんの願いにぴったりな願いだぞ。誰かの願いと誰かの願いがぴったり同じになったとき、奇跡が生まれるものなんだ。よぉーし、あの人たちにぼくの星まで、宇宙人さんの星までやってきてもらおう。そして孤独な宇宙人さんのために、マンガや童話、小説を、いっぱい書いてもらおう」

 ふわりと地球に舞いおりる星の子コリン。
 と、その直後でした。
 天地を引きさくような、ものすごい音とともに、空が真っ赤に染まったのです。

     *

 それはのちの世に知られることとなった大隕石の衝突!
 地球はなくなりこそしませんでしたが、この大事件は、恐竜たちの世界が終わるきっかけとなりました。

 それから気の遠くなるような年月がたち、ようやく時は現代、令和の時代を迎えました。

 令和3年の暮れ、ミミとミルは二人、人間の姉弟として二人で童話を書き上げました。
 タイトルは「恐竜さん、さようなら」。
 そう、この小説です。

 人間に生まれ変わった二人は、知らず知らずのうちに、自分たちの前世にまつわる出来事を話にしたのでした。

 それに気づかない宇宙人ではありませんでした。
 彼はこっそり地球へやってくると、星の子コリンに教えられたその童話を、コリンと一緒に何度も何度も、読み返しましたとさ。

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