変人を唸らせたもう、俺よ
文字数 1,418文字
くそっ、昨日はホワイトデーだったわけなのだが?
きちんとバレンタインデーにはチョコを送ったよな? なのに何もくれないとはどういうことだ、牧島一徳 !
萌え袖っぽく長いカーディガンの裾を噛む僕は、隣の席の牧島の横を行ったり来たりする。時間はもうあまりない。テスト返しが終わってしまったら、春休み突入だ。そしたら僕は転校してしまう。
牧島について、僕は彼のことを好きという特別な感情を持っているわけではない。しかしなぜ、彼にチョコを渡したかというと、知的好奇心からだった。つまり、『好きな人にチョコを渡す女子の心境について心理学的見地から考察してみたかったから』だ。
牧島が僕に何かお返しをしない理由……まぁ普通にお返しする義理も何もない。渡す時もしっかりとこう言った。「恋する女子の気持ちを知るため、貴様にチョコを渡す」と。だが、この考察はホワイトデーを踏まえなくてはわからないのだ。一般的に、ホワイトデーはチョコの返事をもらう日であろう。だから、昨日牧島に何らかのアクションをもらわないと、僕の「心理学的考察」のレポートは完成しない。
うむ、困った……。牧島に、バレンタインのとき贈ったチョコがまずかったのか? 何がいいのかわからなかったから、確かに僕の趣味で作ったものにしたのだが。それが気にいらなかったとか?
むぅ、埒 が明かん。こうなったら直接牧島に聞くしかない。
「牧島」
「なんだよ……さっきからどうした、本堂 。俺の席の横をそわそわと」
「昨日はホワイトデーだったわけだが?」
「え? あ、ああ、そういえば。何? あの嫌がらせのお返しでももらえると思ったのか?」
「嫌がらせ……だと?」
「嫌がらせ以外にないだろ! カセットテープにチョコをコーティングしやがって! 流行りのテープ型のチョコかと思って食ったら、中身プラスチックじゃねぇか!」
ぐっ、これは計算外だったとは。チョコのチョイスを間違えていたか。しかも牧島は少々怒っているようだ。仕方ない。ここは……。
「……にゃーん」
「なにが『にゃーん』だよ! てめぇ!」
「猫というのは怒りを和らげる存在と聞いている」
「お前をどう見たら猫に見えると思うんだよ! いい加減にしろっ!!」
「にゃーん」
「だから『にゃーん』じゃっ……」
ピピッ……ピピッ……ピピッ……
「にゃーん」
朝、7:00。
……くそっ、高校生のときの悪夢か。目覚まし時計を壊す勢いで止める。俺は、『忘れたい友達 ・本堂』の夢を見ていたようだ。
ああ、寝起き最悪だっ!! 本堂はクラスの中でも明らかな変人で、いつも「社会学的実験」だの「心理学的考察」だのなんだの言って、俺を振り回していた。ただ、その実験とか考察が本当に学会に評価され、飛び級で海外の大学に行ってしまったのは、一浪した俺からしてみたら少しうらやましい。
「にゃーん」
「朝メシか。俺も食って、一限から出るか」
起き上がると、カーテンを開ける。いい天気だからか、俺の足まとわりついてくる猫。――ちなみにこの猫の名前は『本堂』という。
忘れたい友人の名前を付けるなんて滑稽だろう? 俺が付けたんじゃない。こいつは本堂が名付けて、俺に押し付けていった猫なのだ。これもある意味「忘却実験」というやつらしい。俺が本堂を忘れられるかどうか、という。
「ほら、メシだぞ。本堂」
カリカリを入れてやると、はぐはぐと食べ始める、猫の本堂。
人間の本堂を忘れられる日は、いつか来るのだろうか?
きちんとバレンタインデーにはチョコを送ったよな? なのに何もくれないとはどういうことだ、
萌え袖っぽく長いカーディガンの裾を噛む僕は、隣の席の牧島の横を行ったり来たりする。時間はもうあまりない。テスト返しが終わってしまったら、春休み突入だ。そしたら僕は転校してしまう。
牧島について、僕は彼のことを好きという特別な感情を持っているわけではない。しかしなぜ、彼にチョコを渡したかというと、知的好奇心からだった。つまり、『好きな人にチョコを渡す女子の心境について心理学的見地から考察してみたかったから』だ。
牧島が僕に何かお返しをしない理由……まぁ普通にお返しする義理も何もない。渡す時もしっかりとこう言った。「恋する女子の気持ちを知るため、貴様にチョコを渡す」と。だが、この考察はホワイトデーを踏まえなくてはわからないのだ。一般的に、ホワイトデーはチョコの返事をもらう日であろう。だから、昨日牧島に何らかのアクションをもらわないと、僕の「心理学的考察」のレポートは完成しない。
うむ、困った……。牧島に、バレンタインのとき贈ったチョコがまずかったのか? 何がいいのかわからなかったから、確かに僕の趣味で作ったものにしたのだが。それが気にいらなかったとか?
むぅ、
「牧島」
「なんだよ……さっきからどうした、
「昨日はホワイトデーだったわけだが?」
「え? あ、ああ、そういえば。何? あの嫌がらせのお返しでももらえると思ったのか?」
「嫌がらせ……だと?」
「嫌がらせ以外にないだろ! カセットテープにチョコをコーティングしやがって! 流行りのテープ型のチョコかと思って食ったら、中身プラスチックじゃねぇか!」
ぐっ、これは計算外だったとは。チョコのチョイスを間違えていたか。しかも牧島は少々怒っているようだ。仕方ない。ここは……。
「……にゃーん」
「なにが『にゃーん』だよ! てめぇ!」
「猫というのは怒りを和らげる存在と聞いている」
「お前をどう見たら猫に見えると思うんだよ! いい加減にしろっ!!」
「にゃーん」
「だから『にゃーん』じゃっ……」
ピピッ……ピピッ……ピピッ……
「にゃーん」
朝、7:00。
……くそっ、高校生のときの悪夢か。目覚まし時計を壊す勢いで止める。俺は、『忘れたい
ああ、寝起き最悪だっ!! 本堂はクラスの中でも明らかな変人で、いつも「社会学的実験」だの「心理学的考察」だのなんだの言って、俺を振り回していた。ただ、その実験とか考察が本当に学会に評価され、飛び級で海外の大学に行ってしまったのは、一浪した俺からしてみたら少しうらやましい。
「にゃーん」
「朝メシか。俺も食って、一限から出るか」
起き上がると、カーテンを開ける。いい天気だからか、俺の足まとわりついてくる猫。――ちなみにこの猫の名前は『本堂』という。
忘れたい友人の名前を付けるなんて滑稽だろう? 俺が付けたんじゃない。こいつは本堂が名付けて、俺に押し付けていった猫なのだ。これもある意味「忘却実験」というやつらしい。俺が本堂を忘れられるかどうか、という。
「ほら、メシだぞ。本堂」
カリカリを入れてやると、はぐはぐと食べ始める、猫の本堂。
人間の本堂を忘れられる日は、いつか来るのだろうか?