風ノ純情
文字数 1,806文字
子狐おこんは机の上にある真っ白な用紙を見つめ続ける。
「......ふぅ」
微かに吐息が漏れ右手に持っている筆が忙しなく動く。書きたい事は分かっている。書こうと思う言葉も頭では分かっている。しかし最初の一文がでて来ないのだ。最初の一歩が踏み出せない所為でかれこれ一時間は経ったであろうか、尻尾も右へ左へとどっちつかずの始末。
とある相手へのなんて事のないお礼の手紙......なのだがおこんにとっては大事である。男性への手紙なんて初めてなのだ。なんと切り出せば良いのだろうかと思案する。厳密に言えばお礼の部分は書き終えているのだが、おこんの中ではここからが本題であり大切なのだ。
「......うーん」
自身の出しうる語彙力を総動員してはいるものの今だ光明は見えず、むしろ彼の事を考えすぎて顔が熱くなっていることに気づく。
なんて事だ思い出すだけでこの有り様である。
単純に食事に誘いたいだけでどうしてここまで考えに考えを巡らせなければならんのかと文句の一つでも言いたくなる。むしろ彼から誘ってくれれば話は早いのだがと脳内で彼にエスコートされるのを想像して顔がまた火照る子狐。
普段はニコニコしてて良く言えばムードメーカー悪く言えば頼りがいがない様なイメージの人、だが先日の彼はとても勇ましく今までの彼からは想像もしない程にカッコ良かった。彼の事を考えるだけで落ち着かない、そんな彼に勇気を出して気持ちを伝えたいのだがいかんせんどう伝えれば良いのかと悪戦苦闘。自身の口からは絶対上手く伝えられないのでこうして文で想いを書いている次第。
だがこれ程までに筆が進まないとはこの感情の扱いというのは骨が折れる。
「はぁ......」何度目かも分からない溜息を吐くおこん。しかしいくら吐こうとも彼女にアドバイスしてくれる者はおらず、部屋の中を漂うだけ。
ふと、用紙に向かってため息を吐き続ける自分に滑稽さとひとりの男性にここまで感情を揺さぶられている自分自身にも苦笑を呈する。今もあの人は周りに笑顔を振りまいている事だろう。こっちは貴方のせいでこんなにも四苦八苦していると言うのに理不尽で罪な人だ。自分ばかりこんなに胸を締め付けられるなんて......。
もやもやとした現状に段々と湧き上がってくるそれはちょっと痛くて、でも不思議と不快でない嬉しいような苦い様な感情......。
おっといけない、これではまた空虚に時間が流れるだけになってしまうとちょっと強めに両頬を叩く子狐。もっと簡単に考えよう言いたい事は単純だ。先日お世話になった感謝とお礼と良かったら食事にとお誘いをする旨を書けば良いのだ。しかしながらこれだけだと如何にも味気ない。ましてや女性からの誘いとは軽い女だと誤解されるのではないか?それは子狐の良しとする所ではない。
そもそも彼は自分の事をどう思っているのだろうか?仲は悪くないとは思うが良いともいえない微妙な距離、彼の好きな食べ物や趣味なども分からない。
「ぁ......そっか」用紙を見つめ続けて暫くぶりの言葉、それは現状を打破する道しるべとなる。
おこんは彼の事を殆ど知らないのだ。この手紙をかくきっかけになったのも彼の新しい一面に心を奪われたからである。
もっと知りたい。彼はどんな事が好きなのだろう?好きな食べ物はあるのだろうか?とその時
「そうだ!」彼女に名案が浮かぶ。
自分が作ってあげれば良いのだ。これでも料理には自信がある。彼と話をするなら混み込みとした街より落ち着いた場所が尚更いいだろう。だから自宅に招いて料理を振る舞おう。我ながら完璧ではないだろうか。そうと決まればおこんの動きは機敏だ。先程とは打って変わり軽快に筆を走らせる。今彼女の頭の中はどんな献立にするかで頭が一杯だ。絶対喜んでもらう!とおこんのやる気も俄然うなぎ登りだ。一体何をあそこまで悩んでいたのだろう追い風と言わんばかりの勢いで用紙は綺麗な文字で埋め尽くされていく。
気になるあの人への真っ直ぐな感謝とちょっぴりと(だが尻尾は忙しなく動いている)情熱を綴った想い。頬に心地よい熱を感じつつ彼女は書き続ける。
だが彼女は知らない、自分がどれ程大胆な行動を起こしていた事に、後に自身の大胆さに違った意味で顔が真っ赤になるのだがそれはまた別のお話。
正直者で一途な子狐のこの恋路はどうなる事やら、それは風だけが知っている事だろう。
「......ふぅ」
微かに吐息が漏れ右手に持っている筆が忙しなく動く。書きたい事は分かっている。書こうと思う言葉も頭では分かっている。しかし最初の一文がでて来ないのだ。最初の一歩が踏み出せない所為でかれこれ一時間は経ったであろうか、尻尾も右へ左へとどっちつかずの始末。
とある相手へのなんて事のないお礼の手紙......なのだがおこんにとっては大事である。男性への手紙なんて初めてなのだ。なんと切り出せば良いのだろうかと思案する。厳密に言えばお礼の部分は書き終えているのだが、おこんの中ではここからが本題であり大切なのだ。
「......うーん」
自身の出しうる語彙力を総動員してはいるものの今だ光明は見えず、むしろ彼の事を考えすぎて顔が熱くなっていることに気づく。
なんて事だ思い出すだけでこの有り様である。
単純に食事に誘いたいだけでどうしてここまで考えに考えを巡らせなければならんのかと文句の一つでも言いたくなる。むしろ彼から誘ってくれれば話は早いのだがと脳内で彼にエスコートされるのを想像して顔がまた火照る子狐。
普段はニコニコしてて良く言えばムードメーカー悪く言えば頼りがいがない様なイメージの人、だが先日の彼はとても勇ましく今までの彼からは想像もしない程にカッコ良かった。彼の事を考えるだけで落ち着かない、そんな彼に勇気を出して気持ちを伝えたいのだがいかんせんどう伝えれば良いのかと悪戦苦闘。自身の口からは絶対上手く伝えられないのでこうして文で想いを書いている次第。
だがこれ程までに筆が進まないとはこの感情の扱いというのは骨が折れる。
「はぁ......」何度目かも分からない溜息を吐くおこん。しかしいくら吐こうとも彼女にアドバイスしてくれる者はおらず、部屋の中を漂うだけ。
ふと、用紙に向かってため息を吐き続ける自分に滑稽さとひとりの男性にここまで感情を揺さぶられている自分自身にも苦笑を呈する。今もあの人は周りに笑顔を振りまいている事だろう。こっちは貴方のせいでこんなにも四苦八苦していると言うのに理不尽で罪な人だ。自分ばかりこんなに胸を締め付けられるなんて......。
もやもやとした現状に段々と湧き上がってくるそれはちょっと痛くて、でも不思議と不快でない嬉しいような苦い様な感情......。
おっといけない、これではまた空虚に時間が流れるだけになってしまうとちょっと強めに両頬を叩く子狐。もっと簡単に考えよう言いたい事は単純だ。先日お世話になった感謝とお礼と良かったら食事にとお誘いをする旨を書けば良いのだ。しかしながらこれだけだと如何にも味気ない。ましてや女性からの誘いとは軽い女だと誤解されるのではないか?それは子狐の良しとする所ではない。
そもそも彼は自分の事をどう思っているのだろうか?仲は悪くないとは思うが良いともいえない微妙な距離、彼の好きな食べ物や趣味なども分からない。
「ぁ......そっか」用紙を見つめ続けて暫くぶりの言葉、それは現状を打破する道しるべとなる。
おこんは彼の事を殆ど知らないのだ。この手紙をかくきっかけになったのも彼の新しい一面に心を奪われたからである。
もっと知りたい。彼はどんな事が好きなのだろう?好きな食べ物はあるのだろうか?とその時
「そうだ!」彼女に名案が浮かぶ。
自分が作ってあげれば良いのだ。これでも料理には自信がある。彼と話をするなら混み込みとした街より落ち着いた場所が尚更いいだろう。だから自宅に招いて料理を振る舞おう。我ながら完璧ではないだろうか。そうと決まればおこんの動きは機敏だ。先程とは打って変わり軽快に筆を走らせる。今彼女の頭の中はどんな献立にするかで頭が一杯だ。絶対喜んでもらう!とおこんのやる気も俄然うなぎ登りだ。一体何をあそこまで悩んでいたのだろう追い風と言わんばかりの勢いで用紙は綺麗な文字で埋め尽くされていく。
気になるあの人への真っ直ぐな感謝とちょっぴりと(だが尻尾は忙しなく動いている)情熱を綴った想い。頬に心地よい熱を感じつつ彼女は書き続ける。
だが彼女は知らない、自分がどれ程大胆な行動を起こしていた事に、後に自身の大胆さに違った意味で顔が真っ赤になるのだがそれはまた別のお話。
正直者で一途な子狐のこの恋路はどうなる事やら、それは風だけが知っている事だろう。