第1話

文字数 1,487文字

妖精探偵だ。入金は確認した。あらかじめ断っておく。俺は逃げた妖精を連れ戻せない。依頼者の元から姿を消した妖精の居場所を調べ、見つけ出した妖精に逃げ出した理由を訊くだけだ。ただし、相手が話したがらないことがある。それに、妖精が依頼者のところへ戻るか戻らないかは、妖精自身が決める。それで構わないな。
わかった。それで構わない。
妖精との関係を話してくれ。
子供の頃からずっと一緒だった。それが、ある日、姿を消した。
妖精がいなくなる理由はあるか?
ない。
思い当たる節は、何一つないか?
ない。
環境の変化はなかったか?
たとえば?
何でもいい。転居、進学、就職、ペットを飼い始めた、家族が増えた、何でもありだ。
そんな理由で妖精はいなくなるの?
いなくなる。そして、二度と戻って来ない。
本当に? 本当に、妖精さんは戻って来ないの?
妖精は気まぐれだ。ちょっとしたことで人間の前には現れなくなる。
本当なの? 絶対に?
くどい。思い当たることがあるなら、正直に言ってくれ。
彼ができた。
分かった。妖精たちの世界に行って探してくるから、消えた妖精の外見と呼び名を教えてくれ。
妖精さんたちの世界があるの? どこに?
すぐ近くにある。妖精の国は、そこら辺にあるが見えない。見えるのは、ほんの小さな子供の頃だけだ。まだ話もできないから、見えても誰にも話せない。喋れるようになったら、もう見えなくなる。そして忘れる。
私は、妖精さんの国は見えないけど、大きくなっても妖精さんは見えたよ。
妖精はイマジナリーフレンドの一種だ。イマジナリーフレンドがいた子供は、大抵の場合、成長するとイマジナリーフレンドは消え去る。想像の産物だったイマジナリーフレンドがいないことに、子供自身が気付くからだ。だが、例外はある。そのイマジナリーフレンドが想像の産物ではなく、本物の妖精の場合だ。それならば、成長しても見える。だが、それもいつか、終わりが来る。
どうして? どうして、ずっと一緒にいられないの?
さあな。理由は消えた妖精に聞いてくれ。ただし、相手が言いたがらないかもしれない。そのときは無理強いできないからな。
わかりました。
消えた妖精の姿形を、呼び名を教えてくれ。
妖精さんの名前は、おっちゃん。外見は、小さな中年。小太りで、ハゲてます。それから、加齢臭が凄いです。本当に臭いです。
分かった。見つかり次第、連絡する。
見つかったそうですね! ありがとうございます!
礼を言われるほどのことはしていない。残念な知らせだ。やはり戻らないそうだ。君の幸せを見守っていると伝えてくれ、と頼まれた。
居なくなった理由を訊きましたか? 消えたのは、私が嫌いになったからですか?
逆だ。君が好きすぎて辛いんだとさ。
え?
君の妖精は、大人になった君を愛するようになった。だけど、君によって妖精は、友達だった。その関係は変わらない。そのうち、君に恋人ができた。君への恋に破れた妖精は、身を引くことに決めた。
それは、本当ですか?
当人から聞いた。依頼は終わった。それでは失礼する。
待って! おっちゃんを呼び戻してください! お願いですから!
断る。どんなに金を積まれてもお断りだ。俺には、そんな残酷なことはできない。
お願い。
くどい。言い忘れていた。君に幸せを祈る、だとさ。俺からも言っておく。彼氏とよろしくやってくれ。それじゃ。
すまん、言い忘れていたことがあった。もう見てないかもしれないが、書いておく。君の妖精が、君への贈り物を枕元に置いておいたそうだ。黄色いリボンだ。君が子供の頃に好きだったのと同じ、黄色いリボンだ。せいぜい大事にしてやってくれ。今度こそ、失礼する。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色