第1話

文字数 2,168文字

昔、田舎とは思えないほどの美しい村がありました。
道は綺麗に整備されており、家の外観は汚れ一つ見当たりませんでした。
村人たちも、そんな村を誇りに思っており、とても幸せな日々を送っていました。


ある日、村に一人の旅人が訪れました。
村の人たちは、旅人を手厚く歓迎し、旅人も村を気に入り、一か月滞在することにしました。

旅人がここに来て、数日が経ったある日。
旅人はある少年を見かけました。少年はひどく痩せこけ、服もボロボロでした。村は平和なのに、どうして少年はボロボロなのだろうと、疑問に思った旅人は、少年に声をかけようとしました。その時、村でパン屋を営んでいる店主が少年に声をかけます。
その途端、店主は少年をたたき、怒声をあげました。それに驚いた旅人は、最初はなにが起きてるかわかりませんでしたが、すぐに店主を止めに入ろうとしました。しかし、次に見た光景に固まりました。
少年が店主に頭を下げているのです。その後、すぐにどこかに走っていってしまいました。

その日の夜、宿に戻っていた旅人は、ベッドに寝ころびながら、昼間のことを思い出していました。自分には、優しく接してくれたパン屋の店主が、子供を殴るなんて未だに信じられません。しかし、目の前で起きた出来事には変わらず、色々と考えてみましたが、その日も村を回っていた旅人は、疲れも色濃く、眠てしまいました。

夜も半分を過ぎた頃でしょうか、外からサッサっと音がします。音は一定のリズムを刻みながら、移動しています。気になった旅人は、窓から外を覗きました。そしたら、昼間見かけた少年が箒を両手に持ち、道をはわいています。少年の後ろには荷台があり、その中にはバケツやブラシなどの掃除用具が入っていました。
少年は町を掃除しながら道を進んでいき、旅人が覗く窓から見えなくなりました。サッサッという音も遠のいていき、とうとう聞こえなくなりました。

朝、旅人はご飯を食べながら、昨日の夜のことを宿のおかみに話しました。そうしたら、おかみは「ああ、村の掃除もののことだね」といい、気になった村人は掃除ものの少年について、詳しく聞きました。

その日の昼、旅人はおかみから聞いた、少年の家に訪れていました。
少年の家は村のはじにあり、外観は石と古い木でできた小屋のようなものでした。また、家の隣には村人たちが、持ってきたであろうゴミが積み上げられており、異臭を放っていました。
旅人は、鼻をふさぎつつ扉をノックしました。しかし、反応はなく、もう一度ノックすると少年がゆっくり扉を開けて出てきました。
昨日の疲れのせいか、とても眠そうに目をこすっており、旅人を認識した途端、驚いた顔になりました。
とりあえず、旅人は少年に話がしたいといい、少年は困惑しつつも中に通してくれました。
中は昨日の掃除道具と、角には少年の寝床であろう場所に、わらが引き詰められていました。
旅人は少年に促され、空いているスペースに腰を下ろしました。
少年も同じように腰を下ろし、客は初めてなのかおどおどしていました。すると、少年はなにかに気づいたのか、鼻を動かし、旅人がもつ荷物に目が行きました。旅人は苦笑しながらも袋からクッキーを取り出し、少年に差し出しました。
少年はよだれを垂らしながらも、受け取っていいのかわからないのか、手を付けようとはしませんでした。旅人が食べていいよと許可をだすと、少年はかぶりつくようにクッキーを食べ、すぐになくなってしまいました。
少年は名残惜しそうに手を見つめていると旅人はまた、クッキーを数枚取り出し、少年に渡しました。そして、それを繰り返しているうちにクッキーの在庫は切れ、少年ももう食べれないと示すようにおなかをさすっていました。
緊張もほぐれたところで旅人は自分の今まで行った場所について語り始めました。エルフの住む森、竜と人が共存する国などのお話。少年は最初、クッキーを食べた余韻に浸っていたのですが、徐々に話に夢中になり、それを見た旅人も楽しくなり、気づいた時には、外は真っ暗でした。村人は少年に別れを告げ、宿に戻っていきまた。
その日から、旅人は少年の家を訪れるようになり、訪れてはお菓子を一緒に食べながら、旅の話をしました。

滞在最終日。
旅人は少年を連れて、村の門の前にいました。
門の前には村の人たちが集まっており、通ることができませんでした。
旅人は村人たちに少年を連れていきたいと話しました。しかし、村人たちは少年は、この村に必要だと拒みました。
旅人は少年にも自由に生きる権利があると訴えましたが、それも村人たちには届きませんでした。
旅人は説得を諦めたように、ため息をつきました。少年は横で不安そうに自分の顔を見上げています。旅人は大丈夫だよと笑顔で返すと、村人たちに向き直り、片手を挙げました。そして、最後に村人たちに怒りを向けて、「そんなに必要とわかっているなら、どうしてもっと大切にしなかったんだ」と言いました。
その時、旅人と少年の周りに風が集まり、竜巻が起こりました。
風が収まった時には旅人と少年の姿はありませんでした。


その後、村は掃除をするものがいなくなり、どんどん汚れていきました。
村が汚いせいか、村人たちの心も荒んでいき、毎日喧嘩や怒号が絶えません。
そこには、あの美しい村はもうありませんでした。
〈終わり〉
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