文字数 1,040文字

 ――そのときの話は、こんなのでした。
 まず最初に、頭のなかでザアーッと音がしたんです。そしたら、ザアーッという音がザッパアーン、バッシャーンと次第に大きくなり、一面に大海原が拡がったんです。
 ……どうやら、さっきの音は波音のようでした。そのうち、太陽が燦々と照りつけて、雲ひとつない日本晴れの空に一羽のカモメが悠々自適に舞いあがりました。カモメが孤独なボクのために、空にリボンを描いてくれました……ゆっくりと浮かぶように、静かな姿で青空を飛んでいたんです。
 ボクは呆然と眺めてました。自分もあの鳥のように何も考えず、自由奔放に生きてゆけたらと……そしたら、カモメは急に向きを変えて、こっちに向かって一直線に飛んできたんです。勢いを増して、物凄いスピードでぶつかってきたんです。ワーッ! ぶち当たるぞと思った危うい瞬間っ。カモメはボクの頭をかすめ、すっと姿を消してしまいました。どうやら助かったと察したボクは、ほっとひとまず安堵しましたよ。
 あとに残るは、大海原に水平線を隔てた真っ青な空だけです。ボクはとても良い気持ちになって、脳裏に浮かんだ天空海闊である絵画のような一画の風景を眺めていました。すると、水平線の彼方から、ゴマ粒みたいに小さな黒点がぽっつり頭を出すと、どんどん大きくなっていくんです……。最初はゴマ粒ぐらいだったのが、米粒になり小豆になって、大豆になりました。そのころになると、ボクにも黒点の正体が分かってきたんです……ハイ……。

 ……それは、とても立派な木造りの船でした。しかし、その船の速いことといったら、半端じゃありません。みるみるうちに、信じられない速度でもって近づいてきたんです。船体がはっきり見える距離まで近づくと……ボクの脳裏に出現した船の正体を、やっとこさ突き詰めましたよ。
 頭のなかに浮かんだ船は、なんと? 七福神をのせた宝船だったんです。風をはらませた赤いマストには、宝という字が大きく金文字で描いてありました……ええ……そりゃもう豪華でしたよ。
 ……しかし、奇妙なこともあるもんです。それというのも、七福神の顔ぶれでした。どうも何処かで遭ったような気がして……確かなことは分かりませんが、漠然とそう感じたんです……ほんとに不思議な感覚でした。
 ボクが首を傾げて思案しますと……どこからともなくバシーッという音がして、肩に重い衝撃を受けました。何かと思い、ハッと気づくと……後方からビーシモンが、精神棒を打ち降ろしていたんですよ……ハイ……。
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