文字数 470文字

女は疲れていた。これ以上歩きたくはない。だが、歩かなければじきに追っ手に捕まるだろう。
女は詐欺師(さぎし)だった。相当な金を騙しとった。女のせいで何人かの人生は破綻(はたん)しただろう。女にとって、そんなことはどうでもよいのだろうが。
「あの野郎、ヘマしやがって…」
小さな声だったが、相当な怒りを含んでいるのが伝わる。疲れていなければ今すぐにでもあの野郎とやらを殺しに行きそうだ。
女は少し休むことにした。休んでいる暇などないことは分かっているのだが、足がもう動かない。
女は上を見上げた。とても綺麗に星が見えた。輝きが強いものや弱いもの、赤いものや青いものもある。一際(ひときわ)輝いてみえるあれが一等星だろうか。
向こうの通りが騒がしい。警察か、それともただの喧嘩か。
「あんたは楽でいいわね」
あの小さな星は自分の力で輝いているわけではない。他の恒星の光を反射して光っているのだ。全て人任せなのに綺麗だと、美しいと言われるのだからこれ以上楽なことはない。女の言い方は皮肉めいていたが、次の言葉は切実な願いのようにも聞こえた。

「星になりたい…」

その時、まばゆい光が女の体を包んだ。
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登場人物紹介

詐欺師。世の中がつまらないと思っている。

オヤジ

人生がうまくいってなさそうな酔っぱらい。

電信柱の影にいる男。誰かを待っている様子。

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