プロット

文字数 3,056文字

起)中学校でなんとなくバドミントン部に入った初心者の真橋音々香(まはしねねか)。
 入部理由は室内だから日焼けしないし、経験者が少ないから、優劣が憑きにくいのではと思ったからだ。なんとなくだが、テニスと比べて運動量がそこまで多くなさそうだと勘違いしていた。入部動機は、イケメンの先輩が多いからという至極単純な答えだ。
 運動神経が良くない音々香がバドミントンを通して恋愛、人間的な成長をしていく話。
 しかし、思った以上にバドミントンは運動量が多い。体育館は上級生メインのため、筋トレや走り込みばかりの日々でラケットを持たせてもらえない。

 イケメンの木山浩志(きやまこうし)先輩は優しく頼りがいのある1個上の先輩。通称貴公子先輩。3年生が引退すると、全員一致の推薦で部長になった。人間性がしっかりしていて、頑張り屋だし、後輩想いの理想のイケメン男子。天才肌の貴公子スマッシュを決める。華麗な貴公子というイメージそのもののスマッシュの度に女子の歓声が響く。運動自体好きではないのだが、先輩と仲良くなりたいという一心でなんとか退部をとどまる。体育会系ではない音々香にとってバドミントン部の筋トレは想像以上にきつい。

 毒舌系ドエスイケメンと囁かれるのは、佐水 得数(さみず えす)先輩。副部長で、部長の幼馴染らしい。貴公子とは真逆の毒舌系王子。ドエススマッシュと囁かれているスマッシュは変化球でまるでドエスな先輩の毒づいた性格そのものを表しているかのよう。意外と努力家で早朝や帰宅後にもトレーニングを欠かさない。

承)ある日、早朝でランニングをしているドエス先輩こと佐水先輩に会う。音々香は部活ではほとんど体育館でシャトルを打たせてもらえないので、せめて素振りと一人でスマッシュ連打を公園で行っていた。シャトルをラケットで拾うという動作もまだへたっぴだ。

 ドエス先輩に嫌味を言われるのではないかと身構える音々香。すると、頑張る後輩はとことん応援すると意外な笑顔を見せる。その後、毎朝ドエス先輩と会うことになり、二人はだんだん仲良くなる。佐水本人もドエス先輩と影で言われていることに気づいているが、佐水は気にすることもなく己を貫く。どんなに憎まれても嫌われても、後輩に厳しく指導するのは、後輩のためを思ってだということらしい。憎まれ役になってまで、人のために厳しい指導をするドエス先輩のことを見直す音々香。

 ある時、音々香が貴公子先輩を好きだという噂がドエス先輩の耳に入る。面白い弱みを握ったとドエス先輩は、基礎トレ内容を組んでくる。もし、これをこなせるようになったら、貴公子先輩とデートをセッティングしてもいいという。二人は幼馴染で、佐水のねがいならば、木山は聞くということだ。

 一緒に朝ランをして筋トレに励む音々香。いつのまにか他の部員よりも基礎体力が身についていた。そして、スマッシュのフォームもドエス先輩直伝のおかげでかなりきれいになっていた。部長の貴公子先輩からも一目おかれるようになり、自然と会話ができる関係になっていた。

転)「今日、スーパームーンが見えるんだって。夜、七時に丘の上公園に集合だ」
 さりげなく、ドエス先輩は貴公子先輩と音々香を誘う。つまり3人でいくならば、おかしくないし、デートのセッティングの約束を果たすということだろう。まずは3人で――それならば問題なく貴公子先輩もオッケーだろう。さすがだ。

 夜の公園は雰囲気がいつもと違う。しかし、見晴らしがいい場所だけあって、天体観測する人たちは結構いる。

「おう、真橋」
貴公子は相変わらず優しい笑顔だ。

「そういえば、さっき佐水から連絡があって、急用ができていけなくなったらしい。俺と二人で申し訳ないな」
 相変わらず謙虚だ。むしろ、緊張する。でも、急用って――まさか、最初から二人きりでデートさせるつもりだったのかな。それって、なんだかずるい。事前に教えてくれてもいいのに。もしかして、本当に急な体調不良だったりして。なんだか不安になる。

「急用って体調不良とかじゃないですよね?」
「俺も詳しくはわかんないんだけど、あいつは昔から自由で勝手気ままな奴なんだよ」
「佐水先輩ってどんな人だったんですか?」
「あいつは、ガキの頃からヤンチャだったからなぁ」

 貴公子先輩の話からは、ドエス先輩のいいところしか見えてこなかった。なんでだろう。友達思いで、人情深くて、自分が損しても身を引くタイプ。他人のためならば、自己犠牲をいとわない。絵にかいたような良い人だ。

「あいつ、口は悪いから誤解されやすいんだけどね。本当に信頼できるいい奴だよ」

 スーパームーンが静かに消えていく。そして、最後に見えなくなる。そして、徐々にまた月が見えてくる。

「これ、あと50年は見れない現象なんだって」
「そんなに?」

 一緒に見たかった。ドエス先輩が隣にいてほしかった。貴公子先輩ももちろんかっこいいし、優しいし、憧れだけれど――。いつも私の傍で指導してくれたのは佐水先輩だ。なんで、こうもあっさり二人きりにしてくれちゃうのかな。明日、朝錬で問い詰めなきゃ。

「実は、今日のことだけど、俺が真橋さんを好きだということを佐水に言って、セッティングしてもらったんだ。俺と付き合ってくれないかな」

 突然の告白が舞い降りて、頭の中は、パニックで真っ白だ。
 どうしよう。そんなこと――言われても――。
 っていうか私は貴公子先輩が好きで、ドエス先輩に相談していたんだ。だから、両思いなのを知っていて、今日のこの場を用意してくれたのかな。相変わらず世話焼きだな。

 顔が赤面する。多分かなり熱くなっている。
「私も、部長が好きですが――先輩と後輩っていう関係が一番いいと思うんです。まだ、お互いしらないことばかりだし」
「そうだよね。突然ごめん」

 結)翌朝、ドエス先輩と朝練だ。
「よう、うまくいったか?」
「先輩は、本当に私と部長がうまくいってほしかったんですか?」
「どういう意味だよ?」
「私が部長と付き合っても平気なんですか?」
「二人は両思いなんだ。俺がとやかく言う筋合いじゃないだろ。うまくいったんだろ?」
「ばかあ!!」

 大きな声で怒鳴ると、びっくりした顔をする佐水。
「私の気持ちはとても揺れているんです」
「どういう意味だよ?」
「鈍感ですよね」
 沈黙が走る。

「私は、部長よりもずっと佐水先輩のことが好きになってしまったんです」

 びっくり顔の佐水。

「だから、とっても複雑なんです」
「なんで? 俺、口が悪いし、女子ウケ悪いだろ」
「先輩は良い人です。いつも他人に思いやりを持って接するがあまり、口調がきつくなっているだけじゃないですか。不器用なだけで、とっても他人思いの素敵な人ですよ」

「何それ? 俺への告白?」
 少し照れながらちゃかしてくる。
「告白です」
 意外にもきっぱり言えた。
「でも、木山のことを考えると……気持ちは嬉しいけどさ」
 想像以上に頬が真っ赤だ。

「好きイコール付き合うというわけじゃないでしょ。あなたに想いを伝えて一緒に時を過ごすだけでいいんです。このままの関係でいいじゃないですか。私は、本当はあなたとスーパームーンが見たかったんですからね」

「俺も、おまえのことは好きだけど――今は……この関係がいい。バド部の先輩後輩として仲よくしよう」
「朝練、ちゃんと明日も来てくださいね」
「もちろんだよ」

 二人の両思いだけれど、付き合わないという選択。でも、お互いの気持ちは確信していて、同じスポーツに打ち込んでいく。
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