第2話 で、でたー。の、のっぺらぼう

文字数 3,151文字

 私はアズリエル達と打ち上げをするために、帰ろうとした時だった。
 墓場から妖気が漂い始めたのに気がついた。
 ただ者ではない化け物の気配。ヒゲにビシビシと伝わってくる。
 「・・・ガット、今すぐ王様を連れて城に帰るんだ!」
 「どうしました、大将軍?」
 「とてつもない化け物の気配がするんだ。急げ!」
 「分かりました。大将軍はどうされるのですか?」
 「私は、そいつをここで押さえておく。今のうちに逃げるんだ!」
 「分かりました大将軍。でも、無理はダメですよ」
 「分かった。王様のことを頼んだよ」
 私は笑顔で、王様を背中に乗せて走るガットを見送った。
 (さてと・・・)

 おぞましい妖気を発して現れたのは、巨大な骸骨だった。
 (うん? あれは確か・・・「がしゃどくろ」ではないのかな?)
 鳥取県境港市の駅前にある、道に設置されているブロンズ像の一体。
 戦の末に命を落としたが、埋葬されなかった哀しき者たちの魂が集まり、生まれた巨骨の妖怪。
 その身は凄まじい怨念に満ちている。夜に出没し、ガチガチと巨骨を鳴らしながら、生きた人間を求め彷徨い歩く。その姿は見た者を震えあがらせるほどに、不気味で恐ろしい。
 (まー、骸骨だからね・・・)
 人間を喰らうのは、「無意味な戦ばかりを起こす愚かな人間を蔑み憎んでいるからだ」と言われている。
 (こんな感じの妖怪だったよな)

 元々、この世界は戦いの世界だ。住みやすかったのかもしれない。神出鬼没であり、捜索が容易ではないことも合わさり、今まで生き延びてきたのだろう。
 目の前にいるこの瞬間を逃すと今後も被害者が増える。私は討伐することにした。

 私を喰らうために手を伸ばす「がしゃどくろ」。
 動く度にガチガチと音がする。ひと度捕まれば、丸飲みされてしまうだろう。得体の知れない妖怪に、私は捕まらないようにするのが精一杯だった。
 (まさか、ここまで手こずるなんて・・・)

 「くらえ、シャイニングフォース」
 上空から光の刃が、がしゃどくろに襲いかかる。
 私は彼女に何度も救われている。彼女の名前はゼルエル。
 「オテロ、大丈夫か?」
 「うん、ありがとう。助かったよ」
 「相変わらず、お前は化け物と戦うのが好きな奴だな。命がいくつあっても足りないぞ!」
 (ははは・・・)
 どうやら私は化け物と戦う運命なのだろう。
 「奴は『がしゃどくろ』だな。討伐許可はすでにおりている。協力して奴を倒すぞ!」
 「うん! そうしよう」
 剣を構え、突撃するゼルエル。宿魔の剣を振る。指の骨がドスンと落ちる。
 (やるな、ゼルエル)
 負けじと私も攻撃に転じた。
 「カムイ無双流・砕拳」
 がしゃどくろの左手の小指を粉砕。

 (な、なんだと・・・)
 小指を粉砕した程度では「何ともない」といわんばかりに、捕まえて喰らうつもりで攻撃をしてきた。
 「あなたの相手は私」
 上空からアズリエルが、がしゃどくろの頭に飛び蹴りをくらわせた。余程腹立たしかったのだろう。私への攻撃を止めて、アズリエルを攻撃対象にした。
 「止めろ! お前の相手は私だ。カムイ無双流・震槍」
 肋骨の一本を破壊。それを踏み台に背中の上へ移動。
 「アズ、気をつけろよ。奴の名前は『がしゃどくろ』。黄泉の国では『夜行』の次にヤバイぞ!」
 骨三郎がアズリエルの代わりに「がしゃどくろ」の気を反らした。
 (すまない、骨三郎)
 私はその隙に背骨の上を走った。攻撃目標は首だ。アズリエルとゼルエルは上空から「がしゃどくろ」を牽制していた。
 「カムイ無双流・天弦」
 グシャと音がした。延髄を破壊すると「がしゃどくろ」は行動を停止した。
 「トドメだ! シャイニングフォース」
 ゼルエルの攻撃で首が落ちた。
 (ひ、ひえー)
 落ちた頭がカタカタ揺れた。しゃれこうべの真っ黒な目が光った。最期のあがきだった。
 丑三つ時にこれは怖すぎる。
 (驚かすなー)
 怒りが徐々に、こみ上げてくる。
 「カムイ無双流・天弦」
 頭を蹴り飛ばした。キラリと闇の向こうへ消えた。
 (さてと終わったな。帰るか?)
 落ちていた「がしゃどくろ」の駒を拾い上げてコインケースに片付けた。
 (来年はコイツで驚かすかな・・・)

 「どうだった『朝陽』。怖い話だっただろう」
 「うーん。微妙かな? 父さんの作り話だよね」
 「違うよ、本当の話さ」
 「・・・」
 息子にオセロニアの世界のことは、今まで一度も話をしたことは無かった。かつて黒猫の冒険者として旅をした私であったが、息子には普通の暮らしをして欲しかったのと、その性格から冒険は無理だと勝手に思っていたからだ。

 電気を消して、ロウソクの火を灯りに納涼の怪談話。息子は臆病な性格だった。怖くなったのか、急に黙りこんだ。
 「朝陽、お風呂に入ってしまいなさい」
 「・・・」
 息子が返事をしなかったので、私の書斎に娘と一緒に妻が入ってこようとしていた。
 薄暗い部屋の障子がガタガタと動く。息子は生唾をのみ込んだ。その隙間から冷たい風が吹き込む。怪談話をしていると本物を呼んでしまうことがあるらしい。心臓がドキドキとする。鼓動が高まる。ロウソクの火が揺れた。障子がガタッと動く。白い影が二つ。
 「あ・な・た・た・ち・・・」
 「あー・さー・ひー・・・」
 薄暗い部屋の灯りで照らされ現れたのは、濡れた長い髪の毛と白い顔。恐怖心でまともな判断ができなかった。
 「で、でたー。の、のっぺらぼう・・・」
 「ヒェー。くわばら、くわばら・・・」
 部屋に悲鳴が響いた。そこには女性の白い「のっぺらぼう」の顔が二つあった。ロウソクの灯りが、より恐怖感をあおる。
 (悪霊退散! ゴメンなさーい)
 数珠玉を握りしめ、祈った。
 (もう二度としませーん。南無阿弥陀仏・・・)
 「・・・あなた達、何をしているの?」
 (あ、あれっ?)
 聞き覚えのある妻の声。私はお祈りのポーズをしていた。息子は気絶して、泡を吹いていた。
 それを見て、娘が電気をつけた。私は勇気を出してそこを見た。
 (えっ?)
 「・・・何だ。驚かさないでよ。心臓が止まるかと思った」
 「・・・ところで、電気を消して何をしていたの?」
 「納涼の怪談話さ。雰囲気が出るように電気を消していたんだよ」
 「あなた、そんなことより早く『朝陽』を起こしてやって・・・」
 (・・・そうだったな)
 気絶した「朝陽」を起こしてやった。
 「うーん。・・・と、父さん、のっぺらぼうは・・・」
 まだパニックを起こしている様子。
 (まー、そうだよな。怖かったからな・・・)
 私は息子に答えた。
 「そんなのは最初からいなかったんだよ。ほら、見てごらん」
 美容パックをしている二人の顔を見るように促した。
 「あれっ。何だ、母さんと朋子じゃないか?」
 息子は気絶したことを恥ずかしそうにしていた。
 「はいはい、怪談話はここまでね。お風呂にしなさい」
 妻は手をパチパチと叩いて、催促をした。私はロウソクの火を「ふー」と消した。
 「相変わらず、怖がりなんだから・・・」
 娘は妻に似て、高いところから人を見下している。いつの日か、私が注意するつもりだ。それまでに本人が分かって、止めてくれるといいのだが・・・。

 それ以来、お盆に親戚が集まると必ず、この話となる富士見家だった。
 今となっては、彼も照れながら「またかよ、いい加減忘れてくれないかな」と言い、スイカを食べて聞いている。
 彼も成長したということだ。私は少し嬉しく思え、微笑んだ。
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