悪徳弁護士

文字数 1,706文字

 俺は、人を5人殺した。2人は30代の男女、3人は10代にも満たない男の子二人と女の子を一人。つまり、一家をまとめて殺したということだ。目的は個人的趣味を満たすためと、あとは金を稼ぐため。不運だったのはその一家の親戚の叔父さんとやらにその現場を見られてしまったことだ。このせいで俺は捕まってしまった。
 本当のところ、もっと殺人はしているが、ばれたのがこの一件だけだ。それでも、このままいけば無期懲役、最悪死刑もあり得るかもしれない。お金さえ手にしてなければ殺人だけだったかもしれないが、これじゃまるで強盗殺人だしな。殺すことが目的だったのに。とっても残念だ。

 しかし俺には心強い味方がいる。この業界では知らない人のいないと言われる、超悪徳弁護士だ。今まで弁護してきたのは、連続殺人犯や、猟奇的殺人犯であだ。そんな人間でも無罪を勝ち取るというなんともエグイ奴だ。俺みたいな快楽殺人鬼も何人も無罪にしてきたらしい。その無罪のなったやつの話を聞かない限り、上手いこと逃がすことまでやっているのだろう。もちろんそれ相応のお金は必要だろうが、俺には今まで貯めてきたお金もある。もちろん前の持ち主は全員黙ってくれているけどな。
 さて今日は実際にその弁護士に会う日である。俺と面会した弁護士の第一声は
「あなたはどうやっても無罪になりたいですか」。
 もちろんだ。そのためにお前を呼んだ。
「なぜ人殺しを」。
 お金のため……といいたいが、実は趣味でな。
「私が弁護する方皆さんと同じことを言うのですね」。
 俺はその評判を聞いてお前さんを指名したんだ。
「私の評判……とは?」
 どんな悪人でも得をする、悪徳弁護士だって聞いてるぜ。
「それはそれは。私はただただ公正な弁護をしているだけですよ」
 ふふっ、強かなだな。
「よく言われますよ。それではあなたを裁判で無罪にしてあげましょう」
 
 裁判当日、俺は悪徳弁護士に言われたことを行った。
『あの日俺には悪魔が憑いていた』
『悪魔の囁きに乗ってしまった』
『気づいた時には俺は拘置所にいた』
『全て俺に憑りついた悪魔のせいだ』
 そう、弁護士は悪魔のせいにしろといった、こうすれば精神衰弱のせいと判決が下るということらしい。この国は意識のなかった人間には甘い。これが通れば俺は無事無罪放免だ。足りない部分は悪徳弁護士がうまくごまかしてくれた。そして裁判長の判断が下る。
「判決を言い渡す。被告は無罪である」。
 勝った。俺は晴れてこれで自由の身だ。流石悪徳弁護士。
「それでは被告に次の裁判を執行する」
 あれ?裁判に次なんてあったか?
「被告人は悪魔に憑りつかれてると自ら告白した。ここに宗教裁判を開始を宣言する。」
 ……。
「おぃ!!弁護士話が違うぞ。俺を無罪にするんだろ。しかもなんだ宗教裁判って。訳が分からねえぞ。」
 なにをおっしゃいますか。法的な裁判は無罪でしたよ。ただ、あなたには悪魔が憑りついているようでしたので。悪魔なら悪魔に対するの裁判が開かれるのが道理でしょう。
あなたは自ら憑りついていると言いましたが、規則ですのでしっかり裁判しますよ。でも大体の人は裁判の途中で悪魔と一緒に消滅してしまいますがね。

「おい、待てよ。そんなことが現代で行えるわけ」
 被告人の声をかき消すように裁判長は言葉を発した
「それでは宗教裁判を開始する。まずは審問椅子によって悪魔がいるかどうかをもう一度白状させる」。
「おい、止めろ。俺に悪魔なんて憑いてなんかいない、俺の意思でやったんだ」。
 悪魔が憑いている人はみんなそう言うのですよ。
「待て、馬鹿……やめろー!」
 男の意識がなくなる寸前に見たのは、笑顔の悪徳弁護士と、狂喜の笑みを浮かべた被害者の親族だった。

 悪魔裁判の始まった裁判所で男の声がこだまする。裁判所を後にする弁護士の携帯に着信音が鳴る。
「はい、ご用件はなんでしょうか。」
「人を十人殺して反省どころか満足気にしている方の弁護ですか。」
 弁護士は笑みをこぼした。
『それは、それは。さぞかし怖い悪魔が憑いているのでしょうね』
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