プロット

文字数 2,531文字

【起】
  とある都市にある白詰学園の中等部一年生の緒方 晴香(おがた はるか)は、陸上部所属ながら文芸部にも兼部する変わり者と周りから思われている。文芸部に所属する理由は、推理小説が好きだから。部室に保管されている過去の部誌を読みながら、いつか物語の探偵みたいに事件を解決したり……と夢想する日々を送っている。そんな彼女の幼馴染である久遠 悠介(くどう ゆうすけ)は、呆れつつも優しく見守るのだった。

【承】
  季節は秋、文化祭のシーズンだ。部誌を作るため、晴香は陸上部の練習を休んでパソコンとにらめっこしながら小説を書いていた。しかしうまく書けず、何かアイデアはないかといつものように過去の部誌を漁っていると、紙が落ちてきた。真新しい原稿用紙に、『腐りきった生徒会に天誅を 時は文化祭』と書いてあるのを見て驚く晴香。部長らに聞くが、心当たりはないし、書いてないという。悠介に話すと、弓道部の更衣室でも同じ文面の張り紙がされていたという。
 結果、生徒会室以外の部活動で使用する教室に同じ内容の張り紙があったことが分かり、学校中で騒ぎになる。
 この事態に、犯人を見つけよう、と晴香は悠介に提案する。情報を集めようと、まず生徒会メンバーと同年である兄・裕登(ひろと)に話を聞く。裕登いわく、生徒会のメンバーは副会長を除いて全員同じ小学校出身の幼馴染。立候補者が集まらず、信任投票でメンバーが決まったものの、副会長だけが決まらなかった。仕方なく、部活動で主将役を務めている生徒で話し合い、剣道部部長である倉橋 千隼(くらはし ちはや)が副会長になることになったのだという。
 千隼とは悠介の兄が友人だったおかげで直接話せたものの、「そんな馬鹿なことはしない」とばっさり切り捨てられてしまった。おまけに「病院に行っていて張り紙事件の時は学校にいない」という鉄壁のアリバイもある。とはいえ一応その生徒会に所属する身として、解決への協力はするとほかのメンバーのことなどについて語ってくれた。
「会長は能天気、会計は守銭奴、庶務と書記は会計のいいなり」と冷たく切り捨てた。千隼を除く四人は幼馴染、特に会計役の小波津 奈美(こなつ なみ)がよく言えばしっかり者のまとめ役で、生徒会を実質動かしているのは彼女だという。また、部費の分配について、癒着があると二年生のころから噂になっているとも証言が出た。
「腐りきった、とはそういうことじゃないか」
そして千隼は自身が剣道部主将であるために、今年の予算会議には出ていないので詳細はわからないという。
「俺をはずしておいて、自分たちは仲良しごっこしてるなんて馬鹿げてるよな」
鼻で笑う千隼に、晴香も悠介も何も言えなかった。

【転】
  千隼の証言から、まず文芸部部長に晴香は話を聞く。部長の話は千隼の話と概ね同じ、そして「部誌の売り上げがあるから一割減らすわねってふざけんなよあのアマ!」とヒートアップ。おびえつつも陸上部主将に話を聞く。「大会優勝で賞金出たんだから二割減ってなめてんのかあのクソ女!」と普段優しい主将の怒号に、晴香は涙目になってしまった。
悠介の方も、「弓道部大会出てないし三割減ねって言われたから矢で射ってやろうかと思った」とにこやかに主将に証言されたという。
増えた部活は女子バスケ部、女子バレー部、女子テニス部。野球部とサッカー部以外の男子のみの部活動および文化系の部活は前年より予算減の憂き目にあってしまったという。
そうなると却って犯人は絞れない。そんななか、千隼が高熱を出して倒れてしまった。元々身体が丈夫でなく、大きな手術を春に控えているのだという。
ほかの生徒会のメンバーは、そんな千隼を心配するどころか、冷たい態度。会計の那美に至っては、「もともと仕方なくやってるんだからこの機会に辞めたら」と吐き捨てる。
その様子に、晴香は一つの仮説に至った。
悠介にそれを話すと同意してくれた。でも証拠はない。警察じゃないから、指紋も筆跡鑑定もできない。晴香と悠介は二人で犯人を追いつめる方法を考えた。
 
【結】
   迎えた文化祭当日。千隼は「どうせこの文化祭の後に選挙だから最後までやる」と意地を見せた。生徒会の一員として、受付業務を黙々とこなす。
それを晴香と悠介は、自分たちも部活の手伝いをしつつ何事もないようにと見守っていた。
いったん千隼が剣道部の様子を見るために受付から離れたところで、晴香と悠介は那美に話しかけた。
「先輩、文芸部の部室、窓が一個しかないから夏はすごく暑いんです。だから、クーラーつけてもらえませんかあ」
「扇風機で我慢しなさいよ」
「あと、棚も増やしてほしいです。文芸部って歴史があるから、そろそろ部誌のバックナンバーがあふれそうなんです」
「はあ?あんな薄っぺらいの、まだ二十冊は入るわよ」
「――――――なんでそんなこと知ってるんですか」
文芸部の場合は、原稿用紙を部誌の保管棚に挿し込んであった。スペースの空き具合なんて、管理している部員や顧問は把握していても不思議ではないが、生徒会会計の彼女が知っているのは不思議だ。
「それは……前視察で……」
「いつですか、わたしが知ってる限り来てないと思いますけど」
「それに、二十冊は入るって妙に具体的ですね」
「文芸部の部誌は実績申告の時に見るから厚さはわかるわよ。大体文芸部って随分ずさんね。鍵もかけないでいるからそのまま原稿用紙を使われるのよ」
「――――――原稿用紙って、何で知ってるんですか?」
ここで那美はようやく観念した。概ね想像通り、唯一自分に意見を言う千隼が気に入らず、濡れ衣を着せてやろうと思ったという。
犯人は見つかったものの、「どうせもうすぐ選挙だし」とうやむやにし、あの張り紙事件の犯人を知るのは教師陣を除けば、当人と晴香と悠介だけだった。二人には当然、かん口令が敷かれるというあまりすっきりしない展開になってしまった。
「一件落着って、やっぱり小説みたいにはいかないね」
しかし千隼が濡れ衣を着せられずに済んだこと、生徒会については立候補より推薦式で各生徒が思い思いにいいと思う生徒の名前を書き、その結果をもって決める方針に変わったのは、
いいことなんじゃないか、と二人は話し合った。
晴香と悠介、幼馴染コンビで挑んだ事件は、こうして幕を閉じたのだった。

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