第1話
文字数 1,128文字
「俺、結婚するわ」
吸っていた煙草を吐くのと同時に、かず君は言った。
「へえ」
私は、風の強さを調整できないおんぼろ扇風機を叩きながら返事をした。
「随分あっさりだな」
「そうかな」
答えると同時に扇風機の羽の根元あたりを叩くと、ぶぅーんと羽が加速する音がした。風が私の髪を容赦なく崩していく。
「いいんじゃない? 美玖さんいい人だと思うよ」
「ん? 美玖? 美玖とはとっくに別れてる。結婚するのは優子と」
「え、そうなの?」
それは知らなかった。かず君と美玖さん、お似合いで結婚まで秒読みだと思っていたのに。
優子さんって確かかず君と同じグループの中にいた人だ。何度かうちに来たこともある。でも、持ってるものが何もかも派手で、何かと雑かった人と言う記憶しかない。かず君は美玖さんみたいにまじめな人が好きじゃなかったのだろうか。
「結構急に決めたんじゃないの」
「あー・・・・・・、三か月を急っていうならそうだろうな」
それは急の部類だろう。そんな風に思ったのが顔に出ていたのか、かず君は言い訳じみた口調で続けた。
「美玖は良いやつだったし、もちろん好きだったけど、家庭を持つには優子の方がいいと思ったんだ。やっぱり彼女と奥さんは別だろ」
「私はなんでもいいけど別に。お父さんたちになんて言うの。まだなんでしょ」
「そんなん何とでも言えるだろ」
かず君は新しい煙草を取り出していった。
「母さんは子供の意思を尊重するっていうのがあるから俺のやることに反対しないし。お義父さんも母さんが反対しないなら反対できないだろ」
吐かれた煙草の煙が夏の夕暮れの空に消えていく。
「うちの家族構成を逆手に取ろうなんて性格悪いね」
「別に逆手にはとってない。客観的な感想を述べたまでだ」
「お義母さん、美玖さんみたいな人の方が好きだと思うよ」
「それは否めない」
「じゃあなんで優子さんにするの」
彼女と恋人は別なんて言ってたけれど、美玖さんの方が奥さんとしてもいいんじゃないの。まじめで、丁寧で、優しい人だった。
かず君は答えずに、私の方へ歩いてきた。そして、目の前に座って私の手を取った。
「お前にはわかると思ってたんだけど」
私の目にかず君の真剣な瞳が映る。なぜか、かず君と家族になると知った時のことを思い出す。
お父さんに連れられて、かず君を見た時、私は何を思っただろう。
新しい家族への不安や緊張? それとも期待や喜び? 多分どれも違う。私はこの人とおそらく一生離れないでいいことに、いつまでも一緒にいれる言い訳を見つけたことに安心したのだ。
きっと私も将来、ダメな彼氏と結婚する。
気づけば扇風機は止まって、私はかず君の腕の中にいる。夏の陽射しは部屋の奥まで差し込み、微熱のような気だるさを誘う。
吸っていた煙草を吐くのと同時に、かず君は言った。
「へえ」
私は、風の強さを調整できないおんぼろ扇風機を叩きながら返事をした。
「随分あっさりだな」
「そうかな」
答えると同時に扇風機の羽の根元あたりを叩くと、ぶぅーんと羽が加速する音がした。風が私の髪を容赦なく崩していく。
「いいんじゃない? 美玖さんいい人だと思うよ」
「ん? 美玖? 美玖とはとっくに別れてる。結婚するのは優子と」
「え、そうなの?」
それは知らなかった。かず君と美玖さん、お似合いで結婚まで秒読みだと思っていたのに。
優子さんって確かかず君と同じグループの中にいた人だ。何度かうちに来たこともある。でも、持ってるものが何もかも派手で、何かと雑かった人と言う記憶しかない。かず君は美玖さんみたいにまじめな人が好きじゃなかったのだろうか。
「結構急に決めたんじゃないの」
「あー・・・・・・、三か月を急っていうならそうだろうな」
それは急の部類だろう。そんな風に思ったのが顔に出ていたのか、かず君は言い訳じみた口調で続けた。
「美玖は良いやつだったし、もちろん好きだったけど、家庭を持つには優子の方がいいと思ったんだ。やっぱり彼女と奥さんは別だろ」
「私はなんでもいいけど別に。お父さんたちになんて言うの。まだなんでしょ」
「そんなん何とでも言えるだろ」
かず君は新しい煙草を取り出していった。
「母さんは子供の意思を尊重するっていうのがあるから俺のやることに反対しないし。お義父さんも母さんが反対しないなら反対できないだろ」
吐かれた煙草の煙が夏の夕暮れの空に消えていく。
「うちの家族構成を逆手に取ろうなんて性格悪いね」
「別に逆手にはとってない。客観的な感想を述べたまでだ」
「お義母さん、美玖さんみたいな人の方が好きだと思うよ」
「それは否めない」
「じゃあなんで優子さんにするの」
彼女と恋人は別なんて言ってたけれど、美玖さんの方が奥さんとしてもいいんじゃないの。まじめで、丁寧で、優しい人だった。
かず君は答えずに、私の方へ歩いてきた。そして、目の前に座って私の手を取った。
「お前にはわかると思ってたんだけど」
私の目にかず君の真剣な瞳が映る。なぜか、かず君と家族になると知った時のことを思い出す。
お父さんに連れられて、かず君を見た時、私は何を思っただろう。
新しい家族への不安や緊張? それとも期待や喜び? 多分どれも違う。私はこの人とおそらく一生離れないでいいことに、いつまでも一緒にいれる言い訳を見つけたことに安心したのだ。
きっと私も将来、ダメな彼氏と結婚する。
気づけば扇風機は止まって、私はかず君の腕の中にいる。夏の陽射しは部屋の奥まで差し込み、微熱のような気だるさを誘う。