第1話

文字数 709文字

これを通れば、ボクの望むところに行けるってパパは言った。
未来でも過去でも、そのどっちでもないところでも。
ボクが思い描くことができたなら、どこへでも連れて行ってくれるんだって。
だからボクはこれを通って、ボクの行きたいところへ行くんだ。


パパも、おじさんも、おばさんも、これを通ったことがあるんだって。
みんなボクと同じ、子どものときに一度だけ。
行って、ちゃんと帰ってきた。
「自分の行きたいところだったのに、どうして帰ってきたの?」
ボクはみんなに聞いたけど、みんなはちょっと困った顔してた。
『理想の場所』にずっと居たいとは限らないんだって。
ちょっとボクにはよくわからないけど、大人はみんなうなずいてたんだ。


ボクはこれからどこへ行こう?
行きたいところはどこだろう?


パパたちには恐竜の時代でもいいって言われたけど、食べられちゃいそう。
侍のいる時代は切られちゃいそうだし、戦争のある時代も怖いな。
宇宙を旅するような未来もいいけど、おじいちゃんになる頃には普通かもしれない。
なら今行かなくても、ほんとの未来に見ればいいな。
今知らなくても、いつかは知れるんだから。


ボクの理想の場所はどんなだろう?
暑すぎなくて、寒すぎなくて、人が多すぎなくて、少なすぎなくて。
お金は持っていたいけど、お金持ちってほどじゃなくて。
ボクはそこではカッコいいけど、そこにいる人もカッコよくて。
できればみんな、笑ってるといいな。
でも、ずっと笑ってるのも怖いな。


ほんとにどこかへ行かなきゃダメかな?
このトンネルは必要なのかな?
なんだかボクには、いらないような気がするんだ。


パパには不思議そうな顔されるけど。
わからないのがいいのかも。
わからないのって、楽しいのかも。

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