第1話

文字数 887文字

自分の了見の狭さに呆れる。

6畳の部屋は横長の長方形で、南側の窓に向かって座っている。いつものように本を開くと間もなく眠気を催したので、座椅子のリクライニングを180度に倒して少し寝ることにする。

(これだと、北枕になっちゃうな)

体を起こして座椅子の向きを変える。横に90度、東側に頭がくるように。北枕は良くない。これで安心して眠れるから、もう一度寝るのにトライ。
……すぐに眠りにつくと思っていたのに、ちょっと眠れなくなってしまった。

(北枕が良くないってのは、東西南北のうち4分の1が潰されてしまうから、4分の1損してるんじゃないか)

最初から東か南か西のチョイスのみ。もし家具の配置とかでその内の一つも使えなかったら、東西南北だった4択は最早半分になってしまう。北枕の迷信を少し恨む。

(そもそも、長方形の部屋に対して平行するようにしか寝ないって考えが窮屈すぎるような)

体の向きは長方形のタテ・ヨコどちらかに対して平行であるものとする。って、算数の問題の注釈みたいな。寝る向きの話なんて、学校で教わるようなことじゃないはずなのに。

なんだか寝られなくなってきたような感じがしてきて、スマホを手にとる。Yahoo!、検索ボックスに「方位 数」と入力。方位 – Wikipediaを見る。東西南北の4方位の他、8方位・16方位・32方位とあるらしい。

(南南東に座椅子を置け!)

再び体を起こして座椅子の向きを変えてみる。部屋の四辺に対して斜めの位置。北枕のせいで4分の1損をした自分におさらば。

(そもそも、ジャスト北なんて360度の一つでしかないのでは?)

≪視界ははるか360度≫
小学校のときに歌った歌を思い出す。地球の丸さ、宇宙の広さに比べたら北枕がNGだなんてほんの些細なことでしかない。

ようやく、眠たくなれたような気がしてきた。6畳の部屋、日本列島のポツンとした点、地球の一部、宇宙のどこかで……ZZZ。

(北枕がよくない理由なんて知らないのに。そんなの迷信で、誰も見ていないのに気にする必要あるのか?)

目が覚めた後、今度は北枕を自分に対して許すかどうか、向きあわなきゃならない……。
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