プロット

文字数 4,443文字

起)メイコは自分の容姿に自信がない十三歳。SNSにあげるため加工・修正した自分の顔写真を見て、「これが本当の顔ならいいのに」と思う。朝、学校へ行くと、クラス中が転校生の話で持ち切りだった。海外から引っ越してきたという噂で、みんなはどんな子が来るのだろうと期待する。やってきた転校生のシン。海外生活が長かったというのは本当だったけれど、流暢な日本語を話し、髪や目、肌の色も自分たちと変わらない。クラスの子たちは安心するとともに、期待が外れてちょっとがっかりという雰囲気もあった。
学校が終わると、メイコは別の中学校に行ったマホにメッセージを送った。マホとは小学校のクラスが同じでよく一緒にいたが、自分のために人を利用するずるい一面があると感じてからは、話しているだけで嫌な気持ちになることもあった。しかし学校が別になってメッセージのやり取りだけになると、中学校に入ってまだ日が浅く仲の良い子がほとんどいない分、メイコはマホとのやりとりが気安くて心地よく、毎日のように連絡をとっていた。メイコが容姿のことで相談すると、マホは良いアプリがあるよと、自身の紹介IDつきのURLを送ってくる。それは、アプリで顔を変えることができる「リアル加工アプリ」というものだった。冗談だろうなと思い、メイコは長々と表示されたアプリの説明や同意条件もそれほど読むことなく、軽い気持ちでそのアプリを使う。すると次の日の朝、本当に顔が変わっていた。

承)まるで別人のような加工をしてしまったため、メイコはその日は学校へ行けず、顔を見られないよう気を付けながら母に具合が悪いことを伝え、学校を休む。ネットで調べてみてもリアル加工アプリの情報はない。メイコは「詳しい説明を読み飛ばしてしまったから、このアプリのことについてもっと教えて欲しい」とマホにお願いする。しばらくするとマホから説明が送られてきた。
・加工した次の日に顔が変わる。効果は一日間。その日が終わるともとの顔に戻る。
・加工した顔は一つだけ保存することができる。次の日の加工は、その顔から始めることができる。
・毎日欠かさず、加工した写真を保存することで、元の顔に戻らず、加工の顔を維持することができる。
・「ずっとこの顔」を指定すると、二度と別の加工はできなくなるが、一日経っても元の顔に戻らず、ずっとその顔のままでいることができる。
「周りにばれない程度に、毎日すこしずつ加工していこう」と、顔の変化を楽しむメイコ。クラスの子たちからも「最近可愛くなったね。痩せた?」などと言われ、嬉しくなる。
ある日の帰り道、電車に座っていたメイコは、視線を感じて顔を上げる。そこにいたのは、メイコと同じくらいの中学生の見た目なのに髭が生えていてスーツを着ている年齢不詳の男。自分の方をちらちら見てくるその男を不気味に思い、メイコは家の最寄り駅に着くとその場から逃げるように電車を降りる。すると男がついてきて、「あの」と声をかけてきた。メイコは身の危険を感じ、その男から逃げる。何とか女子トイレに逃げ込んでほっとするメイコ。走って乱れた前髪を鏡で直しながら、「綺麗な顔になると、こういう目にもあうんだ。気を付けないとね」とどこか得意気に思う。
秋の学校行事である、二泊三日の自然教室が近づいてきた。泊りがけで料理をしたり、自然の中を散策したりする行事だ。メイコはシンと同じ班になり、自然教室が待ち遠しい。しかし一週間前になって、スマホの持ち込みが禁止されている自然教室ではリアル加工アプリを使用することができず、二日目を加工なしの顔で過ごさなければいけないことにメイコは気が付く。「少しずつ、周りにばれないように、半年かけて積み上げてきた加工。今更クラスの子に、元の顔を見せるなんて、たった一日でも絶対に無理」
マホに相談すると、「ずっとこの顔」機能を使ってみなよ、と提案される。マホに背中を押され、メイコは決意する。それから一週間かけて今まで以上に入念な加工を行い、もうこれ以上はないという最高に盛れている顔を完成させる。そしてメイコは「ずっとこの顔」を選択。二日たっても加工がとれないことを確認して、安心するメイコ。
自然教室では手が触れ合うなど、シンとの距離も縮まる。顔の印象に比べて、シンの指は白く、ほっそりしていることにメイコは気が付く。メイコはその手を、きれいだなと思う。加工した顔のまま、メイコは自然教室を無事乗り切ることができた。

転)ある日の放課後、担任の先生に呼ばれて応接室へ行く。そこにいたのは、電車で会った年齢不詳の男だった。彼の名前は佐古。年齢不詳の佐古の正体は、警察官だった。二人で話したいからと担任の先生を外へ出すと、佐古が話し始めたのは「リアル加工アプリ」についてだった。
佐古は、リアル加工アプリの前身であるパソコンのフリーソフト「リアル加工ソフト」の被害者だった。中学生の頃、面白半分で「ずっとこの顔」を選び、以来、年月が経っても、中学生の顔のままであるという。メイコはようやく「ずっとこの顔」の恐ろしさ、「子供の顔のまま大人になる」という事実に気が付いて、泣き出してしまう。ようやく事態の重大さに気が付き、加工を解除したいと思ったメイコに、佐古は二つの方法があると伝える。
一つは、加工アプリ内にある「紹介ID」を使って、別の人に「ずっとこの顔」を使わせること。そうすると、自分の「ずっとこの顔」は解除されるようになっている。
これはアプリの説明書きにも書いてあることだと佐古は言う。それを聞いてメイコは、マホが自分を騙し、マホ自身の「ずっとこの顔」を解除するためにアプリを紹介したことに気が付く。マホに裏切られたことに傷つきますます落ち込むメイコだったが、佐古はもう一つだけ方法があるとメイコを励ます。
それは、佐古が開発した対「リアル加工アプリ」のアンチソフトを使うことだ。このアンチソフトを使用すると、本来はできない「既にユーザーである者同士を、それぞれの紹介IDで紹介し合う」というバグを引き起こすことができ、それにより「ずっとこの顔」を解除することができる。ただしこのやり方では、「ずっとこの顔」を使用した二人一組で解除を行わなければならない。また、紹介IDの繋がりが近い相手だとアンチソフトが作動しなかったケースがあり、メイコの紹介で誰かを巻き込んで、二人一組をつくるというやり方はリスクが大きい、と佐古は説明した。「リアル加工アプリを使っている知り合いなどいない」と、悲嘆にくれるメイコ。
佐古は普段、指名手配犯の顔を町で探す傍ら、「リアル加工アプリ」を使ったらしき顔の若者を見つけては、アンチソフトで解除しているという。悲しむメイコに、「今は未解除のアプリ利用者がいないけれど、見つけ次第、君に連絡するから」と佐古は優しく言った。するとメイコは「佐古さんが相手じゃダメなんですか?」と尋ねる。すると中学生の顔のままの佐古は、「自分の場合、アプリではなくフリーソフトの時代だったが、その当時は紹介IDというもの自体が付与されておらず、まだ解除の仕方を見つけられていない」と苦笑いする。「君はまだ戻れる可能性があるんだから、そんなに悲しまなくても大丈夫」と佐古が言うと、メイコは佐古の気持ちを思い、うまく返答できなかった。
「他に何か聞きたいことはある?」と優しく佐古から聞かれ、メイコは、「どうして私がアプリを使っているってわかったんですか?」と尋ねた。
佐古は、加工アプリを使っている人の特徴を挙げた。それは、顔とそれ以外の部分に差があること。佐古は自分の首や手などを見せて、顔との肌の質感に、大きな差があることを説明した。メイコははっとして、自分の首や手などを確認したいと思った。佐古の顔と首の違和感を見て、自分も傍から見るとそうではないのかと不安になったのだ。そわそわするメイコを見て、「僕の場合は極端な例だからあれだけど、大抵の人の場合はよほど注意して観察していない限り気付かないよ」と佐古は言った。それを聞いて安心するとともに、自分のことばかり考えているなと思ったメイコは恥ずかしくなった。
話が終わり、担任の先生を呼んできてほしいと頼まれて、メイコは職員室へ言った。
先生のところに行くと、シンがいて、先生に話をしていた。シンが近々転校することになったという話が、メイコの耳に飛び込んできた。メイコが近づくと二人は話すのをやめたので、メイコは何も聞かなかったふりをして、先生に、警察の人との話し合いが終わったと告げた。先生は応接室へと向かった。
メイコはシンと職員室を出た。下足置き場へ向かっている途中、メイコはシンが転校するということがショックで、泣き出してしまう。シンは泣いているメイコにハンカチを渡す。シンの手。自然教室のときにも思ったことだが、女性のように白く、ほっそりとしている。メイコははっとして、シンの首を見る。いつもシンの格好いい顔にばかり目が奪われていたけれど、その下の首は顔の肌と、明らかに質感が異なっていた。メイコはドキドキしながら、シンにリアル加工アプリの話をする。シンは驚くが、自分も利用者であることを認める。

結)佐古に相談して、シンが引っ越すタイミング、メイコの学年が変わるタイミングで、二人は加工アプリの解除を行うことになった。「僕は学校が変わるから平気だけど、メイコは同じ学校のままだよね。大丈夫?」とシンはメイコに尋ねる。もしメイコが望むなら、解除するタイミングをメイコが学校を卒業するときに合わせてもいいとシンは提案する。しかしメイコは大丈夫、と言う。その代わり、顔が元通りになっても、今までと同じように接して欲しいと、メイコはシンにお願いする。学校が変わっても、連絡して欲しい、とも。シンは分かった、と言う。そして佐古の立ち合いの元、二人のアプリはアンインストールされた。
次の日、引っ越し業者が作業するシンの家を、メイコは訪れる。そこにいたのは、メイコが日本ではあまり目にしたことのない、明るい髪、目、肌の色をした、シンの姿だった。海外から日本に引っ越してきたばかりのとき、目立つ容姿でいじめられた経験のあるシンは、それを隠すためにアプリを利用していたのだと告白した。メイコはただ「可愛くなりたい」という安易な理由でアプリを利用していた自分を情けなく、恥ずかしく思い、シンの前でぽろぽろと涙を流してしまう。そんなメイコの姿を見て、シンは、「メイコは今のままで十分に可愛いよ」と言う。しかし首を横に振って否定するメイコ。
どうしたら信じてもらえるだろうと考えた挙句、シンは思い切って、彼女にキスをする。きょとんとしたメイコにシンは、「メイコのことが好きだから、メイコさえ良ければ、学校は離れてしまうけれど、付き合って欲しい」と告白する。
驚くが、うん、と頷くメイコ。その加工なしの笑顔を、シンは眩しいと思った。
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