第1話
文字数 806文字
夜の正体
一時期、精神が本当に危うかったとき、外が暗くなってくると意味もなく不安になった。夜が嫌で、白夜だったらいいのに、と思った。暗いのがとにかく嫌だったのだ。暗闇が、自分の中にまで流れ込んでくる気がした。闇に塗りつぶされ、息が詰まってくるようだった。
あるとき、小説の中にこんな一文を見つけた。
夜の正体とは、巨大な影である。
まったく正確ではないかもしれないが、そんなような意味の文が書かれてあった。私は目からウロコが落ちたような気がした。そうか、と思った。夜とは巨大な影だったのだ。
影ということは、もちろんどこかに光がある。光と影はセットなのだから。そもそも、光が当たっているから影ができる。
私は地球を頭に浮かばせた。地球は自転している。回転するミラーボールと同じで、光の筋は真っすぐ地球に当たり続けている。つまり、地球のどこかは必ず明るいということになる。いくらこちらが夜だとしても、向こう側は太陽が降り注ぐ昼間であり、人々は活動しているのだ。
今まで私は、自分がいる場所の暗闇にしか焦点を置いていなかった。どこかが明るいなんて、まったく思いつかなかった。たとえばずっとこちらが昼間だったら、どこかはずっと夜でなければならない。それは不公平だ。明けない夜はない、という使い古された言葉があるが、まさにその通りで、時が来れば必ず明るくなるのである。たとえ今が、永遠の闇に閉ざされているように感じたとしても。
そう気付いてから、私はとてもホッとして、もう夜がきても憂鬱でなくなった。影に入ると星が見られていいじゃないか、とさえ思うようになった。
ベランダから空を見上げると、暗いけれど青空であるのが分かる。まるで電気を消しただけのようにも見える。谷川俊太郎の「朝のリレー」という詩があるが、私達は夜のリレーもしていたのだ。
だがそれでもやっぱり白夜がいい。昼間の延長みたいに、夜でも活動できそうだから。
一時期、精神が本当に危うかったとき、外が暗くなってくると意味もなく不安になった。夜が嫌で、白夜だったらいいのに、と思った。暗いのがとにかく嫌だったのだ。暗闇が、自分の中にまで流れ込んでくる気がした。闇に塗りつぶされ、息が詰まってくるようだった。
あるとき、小説の中にこんな一文を見つけた。
夜の正体とは、巨大な影である。
まったく正確ではないかもしれないが、そんなような意味の文が書かれてあった。私は目からウロコが落ちたような気がした。そうか、と思った。夜とは巨大な影だったのだ。
影ということは、もちろんどこかに光がある。光と影はセットなのだから。そもそも、光が当たっているから影ができる。
私は地球を頭に浮かばせた。地球は自転している。回転するミラーボールと同じで、光の筋は真っすぐ地球に当たり続けている。つまり、地球のどこかは必ず明るいということになる。いくらこちらが夜だとしても、向こう側は太陽が降り注ぐ昼間であり、人々は活動しているのだ。
今まで私は、自分がいる場所の暗闇にしか焦点を置いていなかった。どこかが明るいなんて、まったく思いつかなかった。たとえばずっとこちらが昼間だったら、どこかはずっと夜でなければならない。それは不公平だ。明けない夜はない、という使い古された言葉があるが、まさにその通りで、時が来れば必ず明るくなるのである。たとえ今が、永遠の闇に閉ざされているように感じたとしても。
そう気付いてから、私はとてもホッとして、もう夜がきても憂鬱でなくなった。影に入ると星が見られていいじゃないか、とさえ思うようになった。
ベランダから空を見上げると、暗いけれど青空であるのが分かる。まるで電気を消しただけのようにも見える。谷川俊太郎の「朝のリレー」という詩があるが、私達は夜のリレーもしていたのだ。
だがそれでもやっぱり白夜がいい。昼間の延長みたいに、夜でも活動できそうだから。