第1話 NOVEL DAYS課題文学賞「忘れられない友達」

文字数 1,980文字

 改めて私には友達と言える存在がいたのかと考えると、何人かの「忘れられない友達」がいた。まずは小学校の低学年の時にクラスが一緒になったK君という友達がいた。彼は私と同じように背が低くて、朝礼や運動会などの学校の行事で整列して並ぶと二人とも列の前の方になり近くに立っていたのをきっかけとして自然と話すようになり仲が良くなった。
 彼は背は低かったが、ハンサムでかっこよかった。そしてスポーツ万能で特に野球はうまかった。それに比べて私はスポーツは苦手で何をやってもうまくできなかった。だが、唯一得意で好きになったのが野球で仲の良い友人を集めて草野球のチームを作り、ピッチャーをやっていた。そしてK君は、最初は一緒に野球をしていたが、暫くするとリトルリーグに入って草野球ではない正式なチームで活躍していると聞いた。
 中学になると私は地元の公立中学に進み、K君は私立の中学に進学して全く交流は無くなった。それが30歳位の時に小学校のクラス会があってK君と久しぶりに再会する事になった。彼は仕事があって少し遅れてクラス会に参加したのだが、かっこよく成長してまわりにいて彼を見たクラスメートの空気が一瞬変わったように感じられた。彼と名刺を交換すると海外でも活躍している有名な女性デザイナーの名前が書かれたDCブランドの会社に勤めており、彼が着ているジャケットもオシャレで彼のかっこよさを一層引き立てていた。
 その後、私は仕事が忙しくなったせいもありK君と会う機会はなかった。それでも物心の付き始めた小学校の頃に、相手に対して始めて親しいという感情を持ったK君の存在は私にとって忘れられない思い出だ。今でも彼の名刺に書かれてあった女性デザイナーのブランドの服を見かけるとK君はまだその会社に勤めているのか?とK君の事を思い出す。
 そして、もう一人「忘れられない友達」がいる。彼はA君と言って高校のクラスメートである。その高校は小学校からある大学の付属校で、高校から入学した私やA君は付属中学校からそのまま上がってきた生徒達とはちょっと雰囲気が違うと感じざるをえなかった。その為、高校から入学した生徒は高校から入学した生徒同士で仲良くなるという場合が多かった。
 A君とは学校の帰り道によく一緒に帰ったのを思い出す。高校は最寄り駅の志木駅まで歩いて15分以上かかったが、その間たわいのない話をよくしていたのを思い出す。
 ある日、いつものようにA君と一緒に学校から帰る道の途中に小さなお墓があったのだが、雨が上がってすぐの時間に、お墓の前に霧にかすんだ景色の中に浮かんだ「人魂」を発見した。二人とも一瞬驚いたが、何事もなかったようにその場に立ち止まる事なく歩き進んだ。だが暫く歩いてお墓から離れるとお互いに「間違いなく見たよな」と確認しあったのを覚えている。
 その後、A君も私も高校を卒業して推薦で上の大学に進んだ。大学に入学してからはそれぞれに違う友人も出来て、特にA君の方は軽音楽部での活動が忙しくなったため交流はなくなった。だが大学を卒業する直前にキャンパスで偶然見かけてお互いに決まった就職先を話したのを覚えている。
 私は広告代理店に2年勤務してその後、日刊現代という新聞社に入社した。広告部に所属して営業の仕事をしていた。日刊現代に入社して10年以上経ったある日、広告代理店の人に新製品のCMパブリシティの掲載を頼まれた。そのニュースリリースを見て驚いた。高校時代に親しかったA君がギターを抱えた写真が載っていたのだ。彼は発売する商品のCMの曲を作曲して自らギターも弾いていた。昔の友達が有名企業のCMを作り、ギターを弾いてテレビに出演する。その事実に驚いたが代理店の人にはその場で直ぐにそのパブリシティを記事にすると約束したのを覚えている。
 それから還暦を過ぎてもA君はギタリストとしてライブ活動を続けていた。私も定年を過ぎてもまだ日刊現代に勤務していた。その頃、A君のライブが神楽坂のライブハウスであるというのを知って見に行く事にした。会場は小さな場所で演奏者からも観客の顔ははっきりとわかるスペースだった。そして予定した曲の演奏が終わり、ひと段落した時に私は大きめの声で彼の名を呼び、高校時代の友人だと名前を告げた。A君は一瞬、驚いた表情を見せたが直ぐに私の事を思い出したようだった。そして、アンコールの演奏も終わった後で彼の方から私を探しに会いに来てくれた。大学を卒業して以来、40年以上経っての再会だった。
 高校時代は「ガリだったよね」と痩せていた私の事をA君は表現した。サインをもらおうとするファンもいたので、共通の知っている高校時代の先生の話しをしてその場をすぐに離れた。短い会話だったが私には学校を卒業して何年経っても変わらないA君の存在がそこにはあった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み