第1話

文字数 1,148文字

 1玉のキャベツを投げてみることにした。
 「それはどうしてでしょうか。」
  何故かと問われれば、キャベツを投げたところで私の人生には何も影響しないし、柿はすでに空中で切ってしまったからだ。
 「意味が分かりませんね。」
 柿を手に入れ、何かを空中で切りたいという私がいた。需要と供給が均衡したから、柿を空中で切った。その欲求が発生した理由は覚えていない。今回も同じ。しかし、柿の汁やらで部屋が汚れてしまって、掃除が大変だったことだけを覚えている。部屋1面に新聞紙を敷いておけばよかった。
 「そもそも柿を空中で切るべきではないのでは。」
 今回は、前回の反省を活かし、キャベツをビニール袋に入れて、口をしっかり縛って投げるつもりである。
 ギュッ
 これでキャベツや環境が汚れてしまうと心配する人はいないだろう。
 「心配するところはそこではないと思いますけどね。」
 さて、どこで投げようか。柿は自分の部屋で切れば良かったが、
 「自分の部屋以外の場所で柿を空中で切っていたのなら、色々問題になったでしょうね。」
 私の投擲能力を舐めてもらっては困る。キャベツを投げるには少々この部屋は狭すぎる。
 「これは、嫌な予感がしますね。」
 ほどよく広く、キャベツが投げられるスペースは、んー、あの公園だな。
 「やはり屋外で投げますか。」
 ガラコッ
 この時期、裸足にサンダルで外へ出るが、今は、靴下を履いて靴箱から取り出したスニーカーで公園へ向う。
 公園が見えてきた。生意気盛りの子供達が立ったり座ったりしているが、走り回ってはいない。
 「せめて、誰も見ていないところを選んで頂きたかった。」
 早速投げてみようと思ったが、投げ方が難しいことに気がついた。このキャベツは、サッカーボールより小さく、ソフトボールの球より大きい。サッカーのスローインのように両手で上手投げするのは、格好悪い。かと言って、ソフトボールや野球のように片手掴んで格好良く投げることは難しい。よし、砲丸投げスタイルでいくか。
 キャベツは、掌に乗せて上方斜め45°に投げ上げるのがおそらく最適解だと思う。格好良くはないが、格好悪くもない。
 「いや、あなたの格好良い悪いの基準は知りませんよ。」
 右肩の上で掌に乗ったキャベツがビニールの変形音でうるさい。
 息を整え、「え?」 助走、「ちょっと待って」 右腕を思い切り伸ばす。「おいっ」
 ザギュシャッ
 「レタス!」
 地面とビニールが、ビニールとキャベツが、キャベツ内部の葉どうしが擦れる音、その他色々な音が同時に聞こえた。言葉では、表現出来ない。もしも、キャベツに発声機構があれば、「キャベツ!」 という鳴き声も同時に聞こえてきただろう。
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