第1話

文字数 1,994文字

 今日は残業です!
 楽しそうに見えますか?
 えぇ!楽しみです!

 月に1度、鳥は当番で残業して、夜に落ちてくる星を空に戻す仕事をしています。
 昼間の仕事は、皆さんが見ている『鳥』の仕事です。365日休み無しなので、なかな
か大変です。
 そして、残業の日の私達ペンギンのような泳げる鳥の仕事は、星を拾うことです。これ
は水の中でも陸の上でも活動出来る私達の役目です。でも私達は飛べないので、飛ぶこと
が出来る方達に星を空に戻して貰います。ですので、星を空に戻す鳥と星を拾う鳥がペア
になって残業しているのです。

 残業なんて喜ぶものではないのですが、今日はシマエナガのサヤカさんと一緒なのです。
 サヤカさんは、小さな体ですけど一生懸命で。真っ白な体はみんなの憧れで。以前、星
を抱えて空に向かうサヤカさんを見て。夜空に星を戻した時、星の光に反射して、負けな
いくらいに白く輝く姿を見て、とても綺麗だと思ったのです。
 そんなサヤカさんと一緒だなんて!

「はじめまして、サヤカさん」
「はじめまして、シンさん。今日はよろしくお願いします。」
 こうして残業が始まりました。

 僕が海に落ちた星を集めて。波間に浮かぶ星を。岩間に沈んだ星を。
 今日は波も穏やかで、雲も少なくて、空気が澄んでいて。
 サヤカさんが星を空に戻して。空に輝くその姿はあの日のままで。
「サヤカさんが空に行くと、星になったみたいで、すごく綺麗です。」
「そんな…。シンさんこそ、すいすい泳いで、キラキラ光る星を集めて輝く姿は、まるで
 虹色の鱗を持った魚みたいです。」
 サヤカさんは言葉も素敵です。

 食べ物も住んでいるところも全く違うので、共通の話題が多いわけではなくて。
 ですので、仲良くなれたらと思っていたのですが、僕もサヤカさんも黙々と作業を続け
ました。
 その時、海の底で光る星の傍らに、形の欠けた星に似た石を見つけました。星にとても
良く似ていたので、今日の思い出に持って帰ろうと思ったのです。
 僕が水面に顔を出すと、ちょうどサヤカさんが近くに来られていました。
「サヤカさん。星によく似ている石を見つけました。」
「あら?これって…」
 サヤカさんは、僕が握っている石をまじまじと見つめると
「これは光らなくなってしまった星かもしれません」
と言われました。
「え?」
「私の家にある石に似ています。母からは、ご先祖様が残業中、持っていた星が突然光を
 失ったので家に持って帰ってきたものだと聞きました。」
「本当ですか!?」
 初めて聞く話だったので、僕はびっくりして、大きな声で聞き返してしまいました。
 そんな僕に、サヤカさんは微笑んで
「とてもよく星の形に似ているだけで、本当に星だったのかは分かりません。」
と言われました。

「でも、祖母からは『空の星が少なくなった』と聞きました。祖母も聞いた話だそうです
 が、もっと空に星が光っていた時には、夜空に『星座』という動物の絵が輝いていたそ
 うですよ。」
 サヤカさんは少しだけ目を細めて夜空を見上げていました。
 僕は、手の中のずっしりと冷たい石を見つめて
「こんな風に光らなくなった星が、まだ沢山あるのでしょうか。」
「どうでしょうか…」
「光らなくなったということは、また光るようになるのでしょうか。」
「そう言えば、星を空に運ぶ鳥達がいつも聞かされている歌があります。」
 近くの岩場まで移動して一緒に腰をかけると、サヤカさんはさえずりはじめました。

 『耳を塞いで 両目を閉じて
 耳を澄ませて 心を開けば
 ほら 声が聞こえてくるでしょう

 それは生き物のささやき
 それは星のきらめき

 誰かが誰かを想う時 世界は輝き始める
 誰かが心を閉ざしたなら
 辺りは暗闇に染まるでしょう』

 サヤカさんの声は、素敵です。

「『輝き始める』と歌われているのなら、光るようになるということではないでしょうか。
 星座、見てみたいです。」
「そうですね、もし出来るなら、私も。」
 サヤカさんに喜んで貰えるなら。またこうやって二人で空を眺めることが出来るなら。
「僕、この石を光らせる方法を探してみます。いつかサヤカさんに見て貰えるように頑張
 ります!」
 石を握りしめて、サヤカさんを見ると、サヤカさんも僕の目を見て 
「きっとシンさんなら出来ます。『念力』と言うそうです。思い続けることで生まれる力
 のこと。あなたの想いが叶うように、私も想い続けます。」
と、はっきりと言って下さいました。
 僕は、それがとても嬉しかったのです。
「そうですね。そうなると、とても嬉しいです。」
 途方もない夢。それでも、願い続ければ、いつかきっと。
「頑張りましょうね」
「え?」
「一人でされるつもりだったのですか?」
「…勿論、貴方と二人で!」

 二人の声しか聞こえない暗闇の静寂の中、三日月のそばで一つ、星が輝き出したことに、
顔を見合わせて、空を見ていなかった二人は気が付けなかった。

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