第1話
文字数 1,100文字
『間違えたー!』
大根はそう叫んだ。生える場所を誤ってしまったのだ。
根菜学校で習ったのは、緩い土を彫りあがって、ゆっくり顔を出すこと。しかし彼の場合、群れからはぐれて泳いでいるうちに、周りの土が硬くなってきた。
何くそ! こっちのルートから、群れに戻ってやる!
負けん気の強い彼は、精神力でさらに掘りすすめた。
しだいに周りは土から石ころに代わり、最終的に黒い天井が現れた。
硬い……。まるで鋼鉄だ……。
それでも彼は猪突猛進。自分を信じて、上へ上へと進んだ。その結果、アスファルトを突き破ってしまったのだ。
こうして、いわゆる『ド根性大根』が完成した。
一般的にど根性大根は、歩道や、車道と歩道の境目に現れることが多い。だが運の悪いことに、彼が顔を出したのは国道のど真ん中。頭の上をビュンビュン車が通過する。
初めは風を感じていたが、時間が経ち、成長するにつれ、彼は事態を飲み込み始めた。これ以上伸びると衝突してしまう!
彼は成長を止めたかった。しかし自分自身で止めることはできない。野菜の神様は、根菜に縮む能力を与えなかったのだ。
『はあ……。俺ももう終わりだ』
何とか左右に動いて穴を広げ、再び潜ろうとしても、アスファルトは硬く、うまくいかない。
『こうなったら、いっそのこと車に突き刺さり、飛び上がり自殺を決めようか』
ド根性大根がそう思った時だった。
「よっ」
隣に顔を出したのは、ド根性ゴボウだった。
「助けに来たよ」
『バカ!死ぬぞ』
「僕だけじゃないよ」
その瞬間、ド根性ニンジン・ド根性レンコン・ド根性サツマイモ・ド根性タケノコら、仲間がひょこひょこ顔を出した。中には遠く南半球から、ド根性タロイモも来ていた。彼らの賢いところは、一箇所に纏まって生えたところだ。
「待ってろよ、助けるから」
ド根性ゴボウがそう言うと、彼らは地中へ潜り、また違う場所から顔を出して、また潜った。アスファルトにはたくさんの穴が開き、どんどん脆くなっていった。そして大型トラックが通ったとき、ついに道路は陥没し、ド根性大根は再び地中深くに潜ることが出来た。
「僕たちは人間が必要とした時、必要な分だけ畑から顔を出すのが使命なのだ」
「いつか美味しく食べられるためにね」
『でも食べられたら、なくなっちゃうんでしょ? もう会えなくなるよ』
「違うよ。積もっていくんだよ。人間のなかに」
『雪みたいに?』
「そう、雪みたいに。体の中で永遠に残るんだ」
『じゃあもう、僕たちが人間じゃん』
「その通り。だからちゃんと食べられるとき言うんだよ、『いただきます』って」
『は~い』
根菜たちは今日も群れを形成し、マントルの中を優雅に泳いでいる。
大根はそう叫んだ。生える場所を誤ってしまったのだ。
根菜学校で習ったのは、緩い土を彫りあがって、ゆっくり顔を出すこと。しかし彼の場合、群れからはぐれて泳いでいるうちに、周りの土が硬くなってきた。
何くそ! こっちのルートから、群れに戻ってやる!
負けん気の強い彼は、精神力でさらに掘りすすめた。
しだいに周りは土から石ころに代わり、最終的に黒い天井が現れた。
硬い……。まるで鋼鉄だ……。
それでも彼は猪突猛進。自分を信じて、上へ上へと進んだ。その結果、アスファルトを突き破ってしまったのだ。
こうして、いわゆる『ド根性大根』が完成した。
一般的にど根性大根は、歩道や、車道と歩道の境目に現れることが多い。だが運の悪いことに、彼が顔を出したのは国道のど真ん中。頭の上をビュンビュン車が通過する。
初めは風を感じていたが、時間が経ち、成長するにつれ、彼は事態を飲み込み始めた。これ以上伸びると衝突してしまう!
彼は成長を止めたかった。しかし自分自身で止めることはできない。野菜の神様は、根菜に縮む能力を与えなかったのだ。
『はあ……。俺ももう終わりだ』
何とか左右に動いて穴を広げ、再び潜ろうとしても、アスファルトは硬く、うまくいかない。
『こうなったら、いっそのこと車に突き刺さり、飛び上がり自殺を決めようか』
ド根性大根がそう思った時だった。
「よっ」
隣に顔を出したのは、ド根性ゴボウだった。
「助けに来たよ」
『バカ!死ぬぞ』
「僕だけじゃないよ」
その瞬間、ド根性ニンジン・ド根性レンコン・ド根性サツマイモ・ド根性タケノコら、仲間がひょこひょこ顔を出した。中には遠く南半球から、ド根性タロイモも来ていた。彼らの賢いところは、一箇所に纏まって生えたところだ。
「待ってろよ、助けるから」
ド根性ゴボウがそう言うと、彼らは地中へ潜り、また違う場所から顔を出して、また潜った。アスファルトにはたくさんの穴が開き、どんどん脆くなっていった。そして大型トラックが通ったとき、ついに道路は陥没し、ド根性大根は再び地中深くに潜ることが出来た。
「僕たちは人間が必要とした時、必要な分だけ畑から顔を出すのが使命なのだ」
「いつか美味しく食べられるためにね」
『でも食べられたら、なくなっちゃうんでしょ? もう会えなくなるよ』
「違うよ。積もっていくんだよ。人間のなかに」
『雪みたいに?』
「そう、雪みたいに。体の中で永遠に残るんだ」
『じゃあもう、僕たちが人間じゃん』
「その通り。だからちゃんと食べられるとき言うんだよ、『いただきます』って」
『は~い』
根菜たちは今日も群れを形成し、マントルの中を優雅に泳いでいる。