第1話

文字数 2,386文字

近所のスーパーに行く途中、40代くらいのご夫婦が手をつないで歩いていた。

あら、とてもチャーミングなご夫婦。

はて?わたしたち夫婦が最後に手をつないだのは、一体いつだったかしら。



結婚生活24年、人並みに夫婦ゲンカもしてきたけれど、わりと仲のいい夫婦だと思っている。友人たちにも「仲いいね」とよく言ってもらえるので、はたからみても仲よしなんだろう。

3人の子供たちは、いまとなってはずいぶん大きくなり、ほとんど手もかからない。子供たちには子供たちの付き合いがあり、彼らは彼らで忙しい。

以前のように、週末には家族そろって公園に行き、その後みんなで買い物に行って、帰ってきてから家事をして、などと慌ただしく過ごすこともなくなった。

それは、わたしたち夫婦にとって自由時間が増えたことを意味するが、2人で一緒に出かけることはあまりない。あったとしても数か月に1度くらいで、2人だけで外出するのは年に数えるほど。

なぜなら、わたしたち夫婦は、お互いにほどよい距離感を必要としているからだ。

もともと旦那さんもわたしも、お付き合いしている相手といつでも一緒にいたいと思うタイプではない。それよりも、



自分のテリトリーを守りたいと思っているし、

自分だけの心の空間は必要だと感じているし、

そこに踏み入って欲しくないと思っているし、

相手のそこに踏み入りたいとは思わないし、

相手のことをすべて知りたいとも思わない。



こんなふうに書くと、冷めた夫婦だと思われるかもしれないけれど、自分たちでは、ほどよい温度感のホカホカ夫婦だと思っている。

なんせわたしたちは、自他ともに認める仲よし夫婦なんだもの。

ただ2人とも、可能な限りは『自由に泳がせてもらいたい』と思っていて、相手にも『自由に泳いでもらいたい』と思っている。

その点で100%意見が一致しているので、うまくやっていけるんだと思う。



これといって共通の趣味はなく、好きな音楽・映画・本のジャンルもまったく違う。それでも不思議なことに、子供たちが手を離れたいまでも話は弾むし、居心地がいい。

どの夫婦にも、夫婦間のルールがあると思う。お互いに気持ちよく生活するために、これは守ろうね、というルール。

わたしたち夫婦にもいくつかルールがあるが、そのうちの1つが、他のひとからはあまり共感してもらえない。

それは、SNSでお互いをフォローしないというルール。もちろん、相手のスマホチェックなど、もってのほかだ。

共通の友人を除き、お互いの交友関係はお互いのテリトリーだから、把握しなくてもいいことになっている。ところがあるとき、旦那さんともわたしともSNSで繋がっている共通の友人から、

「夫婦なのに、どうしてSNSで繋がらないの?」

と聞かれ、

「夫婦だと繋がらないといけないの?」

と逆に質問をし、彼女を困らせてしまった。



こういう距離感で生活しているから、旦那さんはわたしがnoteで文章を書いているのを知っていても、わたしのアカウントも知らないし、知りたいとも言ってこない。

仮に旦那さんから「アカウント教えて」と言われても、教えるかどうかは非常にビミョーだ。自分の頭のなかや心のなかが筒抜けになるようで、きわめて居心地が悪い。

SNSのアカウントやパスワードなどはエンディングノートにメモしているので、仮にわたしが旦那さんをおいて先立ったら、そのとき初めて旦那さんは、わたしの脳内や心情を知ることになるのかもしれない。

先日、noteのタイムラインを見ていたら、自分の書いた文章をパートナーに読んでもらっているという記事を見つけて、衝撃を受けた。

え、みんな、そうなの?パートナーにアカウント教えてるの?自分の書いた文章を読んでもらっているの?

旦那さんと適度な距離感をキープしているわたしにはまったく想像できない状況で、目をパチクリさせてしまった。



夫婦の数だけ、夫婦のカタチがある。その数だけ、異なるシアワセがある。

夫婦の距離感もそれぞれで、どれが良くてどれが悪い、なんてものはない。

お互いが納得のうえで、居心地のいい夫婦のカタチを作る。それがベストなんだろうと思う。

夫婦の距離感の平均値なんてものは見たことがないから、わたしたち夫婦の距離感が近いのか遠いのかは分からない。

自分のテリトリーをわりと広めにもっていて、お互いそこには入らないようにしているので、夫婦の距離感としては遠いのかもしれない。

結婚生活が長いのに、お互いの食の好みも知り尽くしていないし、交友関係をすべて把握しているかというと、まったく自信がない。

たとえば、お互いに飲み会の約束が入っても、子供の世話などのスケジューリングが必要だから日時は確認するけれど、誰と飲みに行くかは聞かない。そこはお互いのテリトリーだから、言いたければ言うし、言わなかったとしてもお咎めはない。

こういう考えかたを友人に話すとギョッとされるのだけど、わたしたち夫婦はお互いに、1から10まで知っておきたいというタイプではないから、成立しているんだろう。

だから、わりと自由でいられるのだ。もちろん常識の範囲内ではあるけれど。

こんな話を旦那さんがパパ友にしたら、「そんなの、よく許すねぇ」と言われたみたいで、“そんなの”も“よく許すねぇ”の意味も分からないね、とわたしたち夫婦の意見は一致した。

そういう意味では、わたしたち夫婦は距離感についての考えがマッチしている。だから心はすこやかだし、居心地がいいから仲よしでいられるんだろう。

でも、ここぞというときや、悩みがあって困っているとき、わたしにとって1番の相談相手は旦那さんだ。心から旦那さんを信頼しているのはまちがいない。

お互いが元気なうちは、お互いの自分時間も大切にして、2人のチカラを合わせる必要がある状況では、全力で協力すればいいんじゃないの。そんなふうに夫婦で話し合っている。
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