エピローグ 『隻腕の男』

文字数 730文字

 一年後

 歩行人でごった返している街の交差点付近で、ノースリーブにスカートを身に纏った短髪の女性が一人、なにやら不安気な顔つきで、きょろきょろとしている。

「七海っ」と声をかけながら、女性の手が七海の肩に触れた。七海はビクッと体を震わせて後ろを振り向くと、友達の唯が顔をひきつらせている。

「もう、びっくりさせないでよ」

「びっくりしたのは、こっち。そんなに驚くとは思わないもん。どうしたの、なんか怯えてない?」

 唯が言う通り、七海の顔つきは怖がっているように見えた。

「だってさ、最近ネットとかにも、よく出てくる、あれが気になっちゃって」

「あれ?」

「知らないの、ほら、呪いの痣の話」

「あー、はいはい。あれ、ね。知ってるけど、冗談でしょ。まさか、信じてるとか言わないよね」

「違うの、聞いて。大学の友達が実際にあったんだって。気がついたら、体に手形の痣があって、それを友達に言われた翌日、その子は殺されてたって」

「ほんとに? でも、待って。友達って誰よ」

「友達っていうか、友達の友達っていうか」

「ほらね、噂、決定」唯が勝ち誇ったように鼻を高くした。

「そうなのかな」

「はいはい。もう、遅れちゃうから、行くよ」そう言って、唯が先を急ぐと、七海も後を追い歩いていく。七海の肩にはじんわりと手形の痣が浮かび上がってくる。

 人込みに交じり、七海を見つめる一人の男がいた。男は季節にそぐわない黒いフード付きのコートを身に纏い、顔にはサングラスをかけている。コートの袖からは右腕しか出ておらず、男は隻腕のようだった。男が静かにフードコートを脱いでいくと、中からは、了の顔が露わになっていく。

「今度こそ……」了は睨みつけるような表情で、そう呟くと、二人を追って街の喧騒へと消えていった。
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登場人物紹介

鬼崎早希/きざき・さき(20)


大学生。刑事だった父親の影響から、活発で正義感が強く、誰であろうと弱い立場にいる者を助ける。ただ、助けるためには後先考えずに行動することも。

黒谷大/くろや・だい(21)


大学生。バスケ部のキャプテン。見た目も性格も爽やかな好青年。早希に好意を寄せている。

真山共子/まやま・きょうこ(21)


大学生。眼鏡っ子で、冷めた性格。早希とは高校時代からの付き合い。晴斗のことが好きだが、言い出せないでいる。

高井晴斗/たかい・はると(21)


大学生。場を盛り上げる、陽気な性格。八方美人で容姿が良いことから、女性にモテるが、根は一途で、現在はみさえを狙っている。

濱田みさえ/はまだ・みさえ(19)


スタイルの良さを生かして、男性に対しては露骨にあざとい仕草をしかけるが、本人に自覚はない。注目されるのも好きで、自分が話題の中心にいないと不機嫌になることも。

杉野和真/すぎの・かずま(24)


大学生。就職すると遊べなくなるという理由から、現在学生生活六年目。親が資産家の為、焦りなどはない。最年長だが、誰よりもはしゃぎ、考え方も幼い。

西村善/にしむら・ぜん(35)


ヤクザ。元々別の組の若頭だったが、とある事件をきっかけに現在の組へと吸収されてしまった際、立場的には了と同じ下っ端に格下げされてしまう。腕っぷしは強く、冷静沈着で漢気がある。

青代了/あおしろ・りょう(25)


ヤクザ。西村を慕い、西村に憧れて、この世界に入る。この世界に入る以前の、ヤンキーの界隈ではトップだったが、上下関係の厳しい中、すっかり牙をを折られ、心の声と行動が伴っていない。

佐々木旭/ささき・あきら(23)


ヤクザ。組長の実子。立場を利用して組内で権力を振るうが、性格の悪さから、誰からも慕われてはいない。以前あったいざこざから、西村を目の敵にしている。

殺人鬼/さつじんき


60年前に起こった村人全員が一晩で殺された惨殺事件の犯人。いまだ捕まっていない。

謎の老人/なぞのろうじん


山奥の古屋に住む老人。人に触られることを酷く嫌っている。

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