第1話

文字数 1,673文字

2024年9月になった。

 明日は、お月見である。

 2024年8月の夏は、酷かった。

 ここは、京急品川駅前のマクドナルド。

 もう、新型肺炎コロナウイルス感染症が、収束しているはずなのに、テレビの報道は「今年は、新型肺炎コロナウイルス感染症が、まだ流行しています」とキャスターは、言い、そして、酷暑で「熱中症警戒アラーム」がある。更に、南海トラフ地震が起こるだの、台風が迷走し、コメの値段が高騰している。

 更に、物価上昇率が、高く、物の値段も高くなっている。

 40代後半になっている会社員のトモノリは、マクドナルドの「お月見バーガー」の垂れ幕を見て「ああ、今年も、そんな時期になっているのか」と思った。

 今日は、仕事が終わったな。

 月見バーガーを食べようかどうしようか、と悩んでいる。

 もう、トモノリは、40代後半になっているが、月見バーガーを食べて、そのまま、年を取ったことだけ考えた。

 月には、ウサギが、団子をついているが、そもそも、この世には、神様がいるのか。そもそも、お月見とか『竹取物語』なんてあったが、トモノリは、子供の時やら小学校の時は、そうした紙芝居が好きだったり、本を読んでいたが、もう、この年齢になったら、寂しくて、毎日、仕事に追われている。昨日だって、書類の誤字だけで、また、同僚の月村楓に文句を言った。

 月村楓は、28歳の女性社員で、19歳も年上のトモノリを、本当は「村瀬先輩」と呼ぶべきところを「トモノリ君」なんて呼ぶ。後輩にしては、少し、生意気だと思った。楓は、若い時は、声優だったとか言うが、アニメが好きで、動画配信会社で、アニメの声優をしていたが、体調を崩して、今の機械メーカーに入りなおした。

 確かに、楓は、身長は、160センチは、あって、トモノリよりは、10センチしか、大差ない。

 会社は、京急品川駅前から、徒歩10分のところである。

 スマホで、月村楓のYouTubeを見た。何かのアニソンを歌っているは、知っている。そして、どこかのマニアが、楓の水着写真やら合成写真を、いっぱい載せている。

 そして、スマホの画面を見ながら、「楓みたいな人間でも、こんなにYouTubeで観ているのがいるのか。だが、声優の仕事って、思ったよりも厳しいな」とか訳の分かったような分からないことを考えて、マクドナルドを出て、京急品川駅に向かった。

 京急品川駅で、少し、ベンチに座った。

 もう、若くないと思った。

 実は、最近、目が疲れている。

 そして、いつもスマホばかりで、ゲームをし、動画で音楽を聴くから、たまには、スマホを離れて、空を見た。

 その時、京急品川駅に、快特三崎口行きが、入ってきた。

「赤い電車」の発着メロディーに合わせて入ってきた。

 実は、トモノリは、久しぶりに、快特三崎口行きの車両を見て、新鮮に感じた。実は、トモノリは、電車が好きで、子供の頃は、電車の運転士になりたかった。しかし、色弱でなれなかった。

 そして、久しぶりに、車内から、風景を観ていた。

 夜の風景って、綺麗だと久しぶりに、思った。

 今日、月村楓に怒ったな。

 また、怒った。

 しかし、楓って、目が大きくて、美人だったな。

 10分は忘れていたのか。

 そのまま、車内に入った時、気がついた。

ーああ、スマホを忘れた

 とパニックになった。

 電車は、既に、川崎駅を過ぎていたのだが、横浜駅に着いてから、慌てて、横浜駅の案内所へ向かった。

「すみません」

「はい」

「さっき、品川で、スマホを落として」

「はい」

 と、慌てて、京急横浜駅の駅員さんは、パソコンで調べた。

「実はですね」

「はい」

「ムラセさんのスマホを届けてくれた女性の方がいまして…」

「はい」

 と喜んだ。

 神様はいたのか。

 そう思った。

 そして、次の日だった。

 トモノリは、会社へ行ったら、品川駅前の団子を、楓にあげた。

「昨日のお礼だよ」

 と、どこか、不満そうな口調で言った。

 トモノリのスマホを届けたのは、楓だった。

 楓は、横で、笑顔でお茶を飲んでいたらしい。

 職場の9月の月とウサギのカレンダーの側で。

<完>
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