プロット

文字数 1,902文字

起)中学一年生の有栖夢乃(ありすゆめの)の学校に、あるウワサが広まる。それは、「現実世界なんて嫌いだと思った人は、真夜中の図書室の本に取り込まれる」。姫川美紅(ひめかわみく)は、学級委員長でありクラスの中のリーダー的存在で、あだ名は「女王」。その彼女が数日前に行方不明になっていた。クラスの女子たちは、「みんなに偉そうなことを言ってるから、バチがあたったんだ」と言う。教室のすみっこでいつも読書している夢乃は、「私も空想の世界に行けたらいいのに」とふと思ってしまう。その日の真夜中、赤いベストを着た白いうさぎが、夢乃のベッドの前に現れる。夢だろうと思った夢乃は、まるで空想の世界の一ページのようだと喜々としてうさぎを追いかける。たどり着いたのは、学校の図書室。落ちていた本『不思議の国のアリス』を拾い上げようとすると、「拾ってはだめ!」という声が聞こえた。しかし彼女は本を拾い、そして物語の本の中に取り込まれた。

承)物語の世界で夢乃は、世界を救う勇者として、物語の住人たちに歓迎される。まるでお姫様のように扱ってもらえる世界に、夢乃は有頂天になる。周りの物語の住人たちに「このまま、この世界にいたいと思う?」と尋ねられた夢乃は、つい「ずっとこの世界にいたい」と答えてしまう。そのとたん、美しかった物語の風景が一変し、昼だった世界は真っ暗になってしまう。戸惑う夢乃の前に、赤いベストを着たうさぎが現れる。つい先ほどまで彼女が見ていた世界は、偽物で、今見ている世界こそ、この世界の本当の世界である、と。物語に存在する「鬼」に見つかり、捕まえられてしまうと、一生その人は物語から脱出できず、物語の登場人物の一人にされてしまう。夢乃は、赤の女王のおつきの人の中に、美紅を見つける。しかし彼女は現実世界での記憶を失い、自分が物語の登場人物だと思い込んでしまっていた。うさぎの案内で、チェシャ猫、帽子屋、眠りネズミを紹介される。親切にしてくれる眠りネズミに、彼女は自分の現実世界での状況を話し、相談に乗ってもらう。眠りネズミは、「それは、この世界でいる方が幸せかもね」と言う。夢乃は、それを聞いて少し安心する。彼女が散歩していた時、とかげのビルが川の前で泣いていた。彼が大事にしているはしごが、流されている。困っている人を助けることが大切というのは童話の世界では常識だ。はしごを拾ってあげた夢乃に、ビルは、小瓶を差し出す。「困ったときは、これを飲むといい」。

転)赤の女王のお茶会の招待状を受け取った夢乃。女王こそこの物語の「鬼」であると思っていた彼女は、招待を断ろうと考える。チェシャ猫は「好きにすれば」、帽子屋は「キミが行きたくないのなら、断ればいい」と言う。しかし、眠りネズミだけは「絶対に出席すべきだ」と言う。彼のことを信用している夢乃は、眠りネズミの助言通り、お茶会に出席することにする。赤の女王のティーパーティにて、眠りネズミの隣の席に座った夢乃。赤の女王に話しかけられて、答えに困った彼女は思わず、出された紅茶を一気に飲み干した。すると、視界がぼやけてくる。その時、隣に座っていた眠りネズミが高笑いをもらす。実は、彼こそがこの世界の物語の「鬼」で、現実世界の人間をこの世界に三人閉じ込めることができれば、自分が現実世界に出ることができるのだ。眠りネズミが夢乃を捕まえようとしたその時、彼女は「困ったときは、これを飲むといい」ととかげのビルからもらった小瓶を飲み干す。現れたのは、ジャバウォックに乗ったとかげのビル。ビルは、夢乃に尋ねる。「キミの望みを一つだけ叶えよう」。

結)夢乃は、「美紅と共に元の世界に戻ること」を願う。「この世界で暮らしたいって思ったんじゃないのかい?」と尋ねられて、いったん言葉に詰まるがはっきりと告げる。「この世界は確かに美しかった。けれど、自分の本来いるべき場所に戻りたい」。その願いは叶えられ、二人は真夜中の学校の図書室に戻ってきていた。美紅がなぜ、物語の世界にいたいと思ったのか、夢乃は不思議に思った。尋ねてみると、美紅は数日前、クラスメートたちが自分のことを「リーダー面して、キモイ」と会話していた現場を目撃し、落ち込んでいた。自分の居場所がほしくて、学級委員長などみんなが嫌がる役割を買って出て、まとめてきたのに、そう思われてショックだったと告げる。夢乃と美紅。どちらも自分の居場所が欲しかったのは同じ。二人は、友達になってみよう、と提案する。お互いがお互いの居場所になれることを願いながら、真夜中の図書室を後にした。図書室には、別の光る本が出現していたことを知らずに。
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