第五夜『わたしの顔どうなっています?』 〔文字数・約1200文字〕
文字数 1,129文字
その日、ある女性患者が皮膚科病院を訪れた。
引っ掻いた爪痕で赤く顔が腫れた女性患者は、診察室で皮膚科医に告げた。
「顔が痒いんです」
「どんな風にですか?」
「なにか、通常の痒みと違うような……皮膚の表面じゃなくて、もっと深い部分に痒みが」
「ふむっ、顔の痒みはいつから?」
「三日前からです、友人から海外旅行で買ってきてプレゼントしてくれた、木彫りのお面を枕元の壁に立て掛けて飾った翌朝から」
「ふむっ、白癬菌(はくせんきん)の一種が原因の感染症かも知れませんね……塗り薬を処方しましから、それでしばらく様子を見てもらいましょう。あまり顔を掻かないようにしてください……三日後に来てください」
女性は医院近くの薬局で、指定された薬をもらって帰った。
三日後──顔にグルグルと包帯を巻いた、女性患者が再院した。
「ダメでした、渡された薬を塗っても痒みは消えませんでした……顔を爪で掻き壊さないように、自分で包帯を顔に巻きました……あぁ、顔を掻きたい」
「落ち着いてください、診察しますから」
皮膚科医は女性の顔に巻かれていた包帯を外す。包帯の下から現れた顔は、爪の掻き痕も残っていない綺麗な顔だった。
医師は女性患者の顎のエラに、顔面に沿ってめくれたような亀裂が走り、亀裂の内側に赤肉色の中に黒い粒々と粒から生えて蠢いている、黒いダニの脚のような物が見えた。
青ざめて、椅子を引いて後退する医師。
(なんだ!? あの顎の亀裂は? あんなの見たコトが無い)
包帯を外された女性は、顔を手で覆って言った。
「顔が痒い! 顔を掻きむしってしまいたい! あぁぁぁっ」
女性は狂ったように、顔を掻く。
「あぁぁ……気持ちいい、痒い! 痒い!」
「落ち着いて! それでは診察が!?」
いきなり、女性の顔がお面のようにペロッと剥がれて床に落ちた。
目や鼻や口が、そのまま付いたまま。
恐怖に言葉を失う皮膚科医、皮が剥けた女性患者の顔は何も無かった。
殻を剥いた、ゆで卵の表面のようにツルッとしていた。
(!?!?!?)
剥がれ落ちた、女性の顔の皮膚の裏側が、焼いたスルメが丸まるように徐々に見えてきた。
皮の裏側はビッシリと、黒い粒々のダニのような生物で埋まり、粒からはダニの脚のようなモノが生えていて、皮の裏側にウジャウジャ蠢いていた。
『人皮蟲』と言う表現がピッタリの、皮の裏側に群れて蠢く蟲だった。
皮膚科医が、恐怖に悲鳴を発する。
「うわぁぁぁ!」
床に剥がれ落ちた顔と、ノッペラ坊の顔が同時に皮膚科医に訊ねてきた。
「わたしの顔はどうなっています?」
と……。
『わたしの顔どうなっています?』~おわり~
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