魔王の役目

文字数 1,225文字

ゴーゼルッド。

彼は強力な戦闘兵器として造られはしたものの、思いのほか早く、世界に平和が訪れた。そうなると彼はもう用済み、というより世界にとっては厄介者だ。彼の所有国はカンカンガクガクの議論の末、戦闘生命体を廃棄処分と決定したが、彼は納得しなかった。

「もっと戦いたい。僕はその為に生まれて来たのだから」

だがそんな願いが叶うはずもなく、ついに処刑の日が訪れる。彼は怨嗟とも懇願ともつかぬ声をあげた。

「僕は、もっと戦いたい! 戦いの中で倒れたい!」

その時、天から光が降り注ぎ、一瞬の内にゴーゼルッドを包み込む。輝きがおさまると、彼は煙のように掻き消えていた。

暗い世界から差し込む微かな光で目を覚ます戦闘生命体。

「おぉ、魔王よ。我らが願いに応じて降臨下さった!」

見るとゴーゼルッドの前には、如何にも邪教集団といった体のローブをまとった数人の男たちが集まり、彼を称えていた。

どうやらこの男たちは、何か勘違いをしているようだ……。もしかして、これが兵士たちが話していた異世界召喚なのか。まさか、戦闘兵器の僕が召喚されるとは……。

ゴーゼルッドはそう思ったが、一度は消えかけた命。話を彼らに合わせ自ら魔王と名乗った。そして邪悪な神として、世界の破壊を開始する。人々は彼を恐れ、逃げ惑う。ゴーゼルッドにとって、至福の時が訪れた。

だが、幸せな時間というものは長くは続かない。それまで足並みが揃わなかった各国も、この脅威に一致団結し反転攻勢に打って出た。戦士、魔法使い、僧侶等々、手ごわい相手が次々と現れ始め、最後は勇者の登場となる。

ゴーゼルッドは力の限り戦ったが、ついには力尽きその身を大地に横たえた。彼が第二の人生を終える時、岩陰にあの時出会った邪教集団の男たちを見た気がした。

あぁ、有難う。君たちのおかげで、僕は天寿を全うする事が出来た。

ゴーゼルッドはゆっくりと目を閉じ、その生涯を終える。

歓喜に沸き立つ民衆。その陰で、邪教集団の男たちも祝杯をあげていた。

「上手くいったな。先代からノウハウを教わっていたとはいえ、調整を間違えると世界を亡ぼす事にもなりかねない。一世一代の仕事を無事成功させ、本当にほっとしたよ」

邪教集団のリーダーが、皆をねぎらう。

「だが、これで全てが終わったわけではないぞ。世界各国の団結が少しでも長く続くよう、作戦の第二段階に入るとしよう。そして、我らの後継者に向けて、今回の作戦における詳細をまとめる事も忘れてはいけない」

リーダーは前途を祝して、二度目の乾杯の音頭を取った。

もう、お分かりであろう。これがこの世界の平和の保ち方なのだ。様々な国がいがみ合い、世界が滅びへ向かおうとする時、平和を維持する秘密結社が世界共通の敵、すなわち魔王を召喚する。その強大な敵を前に、各国は団結せざるを得なくなる。そして、かりそめの平和が訪れるのだ。

読者諸君、ゆめゆめペテンと言うなかれ。人間という動物の業の深さは、どこの世界でもさして変わりはしないのだから。
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