episode 2 告白しちゃだめ
文字数 1,379文字
ふいに俺の思案を乱し、机のスマートフォンが揺れた。電話だ。相手の名前を確認すると、俺の恋の悩みを知るただ一人の男飯田 である。奴は一ヶ月前、未琴さんの姿をそっと眺める俺を見つけて秘密を聞き出しやがった。
──おまえは帰ればラブラブ環ちゃんが待ってるシスコンだからな、無意識に『妹』という型を求めてしまうんだ。
妹がいればシスコンって無茶苦茶を言う。
──おっと、外面 はイケメンでも心はうじうじじめじめ、イケメンとはほど遠い。だから優位性からしてうそで、周りのもてもてだろって期待を裏切りたくなくて告白できないのか?
ああ俺はどう反論したんだっけ、って電話。
「おいっ、早く出ろよばか長橋! あのな、八組の笹倉 が明日の放課後、広倉さんを呼び出すって話だ。まずいぞ?」
こちらが言葉を発する前に耳をきいん痛めつける飯田の怒声、どくんと驚いた俺は視界が夕方の部屋以上に暗くなって思わずよろめく。笹倉なんて奴は聞いたこともなかった。
「いいか長橋、風雲急を告げるだ。とにかく明日放課後が来るまでに告白しろ、意地張って奪われたら元も子もない」
「告白し……、い、いやだ。だめだ」
俺は自分が最大の主義を譲れるとは思えず、見えない相手に向かって首を横に振る。
「──あのな、よく考えてみろ。自分から告白する女は強気でほんぽうだともいうぜ、ほれた者の弱みで男に従順とは限らないんだよ。そんな妄想にとらわれていいことないって」
飯田の話はおそらく何より正しいのだろう、それでも俺は闘うべきなのだ。
「だけど、ほらその、やっぱり怖いよ。俺は絶対に告白しちゃいけないんだから」
「絶対にって、このままじゃ長橋おまえは一生環ちゃんとシスコンブラコンだからな!」
えっ、うわっ切りやがった。しかも声の響きから奴が学校にいたなら今の叫びを誰に聞かれたかわからない。ただでさえ嫌な汗がやたらと出てきたというのに、明日教室にわき起こる「環ちゃんとシスコン!」、「環ちゃんブラコン!」の大合唱は地獄だ。想像を絶する光景に、俺はぞぞぐぐぐと重い寒気に包まれ座り込んだ。明日、明日、明日告白しろってもうそれどころじゃ──待った、これもあいつの言うように未琴さんに告白すればすむのでは?
だけどシスコン扱いされたくないから信念を曲げる、俺がそこまでやわな男だったとは。でも同じ西高に入るかもしれない環に迷惑はかけたくないし……、げっ、何だ?
銀色の端末を持つ右腕を下ろす俺、生暖かい部屋の中にその環がいるではないか。
「──お兄ちゃん、告白って何? するの?」
告白? それよりどうした、その怒り声なら「瞭」と呼ぶはずだろう。
「ねえどこにも行かないで。告白しちゃだめ」
「しちゃだめって、何言ってるんだよ」
まさか飯田の声は聞こえてないと思うが、なぜ告白だとわかったのか。俺も口にしたっけ? 真剣に蒼ざめた彼女はまるで俺を心配してくれているかのよう。
「もし女と会ったら、お兄ちゃんもうちも恐ろしいことになる。もっと冷静になって」
冷静さを失っているのは泣きだしそうな環のほうだ、なだめなければと焦る俺の前に彼女の瞳から雫が落ちて輝く。こんな妹をかまいすぎたら確実にシスコンではないか。俺はそれでも少々のちゅうちょの後、彼女を「何言ってんだよ環。大丈夫、何もないから」とごまかし、華奢 な肩を優しく廊下に押し出した。
──おまえは帰ればラブラブ環ちゃんが待ってるシスコンだからな、無意識に『妹』という型を求めてしまうんだ。
妹がいればシスコンって無茶苦茶を言う。
──おっと、
ああ俺はどう反論したんだっけ、って電話。
「おいっ、早く出ろよばか長橋! あのな、八組の
こちらが言葉を発する前に耳をきいん痛めつける飯田の怒声、どくんと驚いた俺は視界が夕方の部屋以上に暗くなって思わずよろめく。笹倉なんて奴は聞いたこともなかった。
「いいか長橋、風雲急を告げるだ。とにかく明日放課後が来るまでに告白しろ、意地張って奪われたら元も子もない」
「告白し……、い、いやだ。だめだ」
俺は自分が最大の主義を譲れるとは思えず、見えない相手に向かって首を横に振る。
「──あのな、よく考えてみろ。自分から告白する女は強気でほんぽうだともいうぜ、ほれた者の弱みで男に従順とは限らないんだよ。そんな妄想にとらわれていいことないって」
飯田の話はおそらく何より正しいのだろう、それでも俺は闘うべきなのだ。
「だけど、ほらその、やっぱり怖いよ。俺は絶対に告白しちゃいけないんだから」
「絶対にって、このままじゃ長橋おまえは一生環ちゃんとシスコンブラコンだからな!」
えっ、うわっ切りやがった。しかも声の響きから奴が学校にいたなら今の叫びを誰に聞かれたかわからない。ただでさえ嫌な汗がやたらと出てきたというのに、明日教室にわき起こる「環ちゃんとシスコン!」、「環ちゃんブラコン!」の大合唱は地獄だ。想像を絶する光景に、俺はぞぞぐぐぐと重い寒気に包まれ座り込んだ。明日、明日、明日告白しろってもうそれどころじゃ──待った、これもあいつの言うように未琴さんに告白すればすむのでは?
だけどシスコン扱いされたくないから信念を曲げる、俺がそこまでやわな男だったとは。でも同じ西高に入るかもしれない環に迷惑はかけたくないし……、げっ、何だ?
銀色の端末を持つ右腕を下ろす俺、生暖かい部屋の中にその環がいるではないか。
「──お兄ちゃん、告白って何? するの?」
告白? それよりどうした、その怒り声なら「瞭」と呼ぶはずだろう。
「ねえどこにも行かないで。告白しちゃだめ」
「しちゃだめって、何言ってるんだよ」
まさか飯田の声は聞こえてないと思うが、なぜ告白だとわかったのか。俺も口にしたっけ? 真剣に蒼ざめた彼女はまるで俺を心配してくれているかのよう。
「もし女と会ったら、お兄ちゃんもうちも恐ろしいことになる。もっと冷静になって」
冷静さを失っているのは泣きだしそうな環のほうだ、なだめなければと焦る俺の前に彼女の瞳から雫が落ちて輝く。こんな妹をかまいすぎたら確実にシスコンではないか。俺はそれでも少々のちゅうちょの後、彼女を「何言ってんだよ環。大丈夫、何もないから」とごまかし、