第1話 RPG

文字数 1,472文字

―準備完了。世界を起動します。
―3・2・1、スタート。

この世界に降り立つのは何度目だろうか。
幾度となくこの世界を救ってきた。
そろそろ同じことの繰り返しで正直飽きてきた。
世界が始まるたびに考える、今回は何度死ぬだろう、何度敵を殺すのか。
しかし…。おかしい、何だこの違和感は。
いつもと違うことに気が付いたのは、世界がスタートしてすぐのことだった。
いつもなら俺の母親の呼ぶ声で目が覚めて、すぐに母親の元へ向かうのだが。
今回はなぜか部屋を出ずに、枕元にあった目覚まし時計を手に取って部屋の角へ行き壁に向かってジャンプをし始めた。
(…どういうことだ?)
(なぜこんな行動をとる?)
ああそうか、今回の相棒は少し操作がへたくそなんだな。
(違う違う!ドアに向かうんだ、部屋から出ろ)
そんな俺の思いもむなしく、俺は壁に向かってジャンプし続けた。
―ヒュン
一瞬視界が暗転する、と次の瞬間俺は家の外にいた。
何が起きたのかわからなかった。
確かにさっきまで部屋の中にいたはずだ。なのに今は玄関の前に立っている。
<いってらっしゃい、王様に失礼のないようにね>
いつの間にか現れた母親に見送られる、と同時に歩き出す。
わき目もふらず一直線に城へと向かう。
到着した俺は王様の元へ案内された。
この世界に初めて降り立った時は緊張したが、今じゃもう見飽きた光景だ。
<△×〇□…!!
⁉何だ?全く聞き取れなかった。
(今は何の沈黙だ…?…俺の返答待ちか?)
―はい/いいえ
俺の目の前に文章が浮かんでいる。
恐らく魔王討伐を頼まれたんだろう。
(はい)
<△□〇〇×、〇□××!>
ああ、もうよくわからないが話は終わったらしい。
世界のスタートからわずか20秒。俺は全てを悟り、全てを諦めた。
つまり今回の相棒はそういう奴らしい。

城を出た俺は真っすぐ<迷いの森>へ向かい、迷うことなく森を抜けた。
(それにしても、いつまで俺は目覚まし時計を持っているんだ)
(こんなもの持っていたとて、何の役にもたたないのに)
なんてことをぶつくさと呟きながら歩いていると、いつの間にか魔王城は目と鼻の先というところまで来ていた。
(いや待て待て!いろいろとおかしすぎる!)
道中で出会うべき魔王の幹部…名前は何だったか…。<ミッド>だったか?
ともかくそいつとか、気づいたら後ろにぴったりと整列してついてきている仲間とか。
(お前ら何食わぬ顔で並んでるけど、いつ仲間になった)
そんでもってなんか強そうな武器持ってるし…。(いいな)
俺だけ今だ所持品<目覚まし時計>だけなんだが。

<△〇×□□!〇〇×!!
相変わらず聞き取れない言葉の後、魔王は咆哮した。
世界のスタートから2分30秒。俺は魔王の玉座までたどり着いていた。
―パーティー確認
勇者Lv.1 装備:目覚まし時計
魔導士Lv.99 装備:救世の杖
盾使いLv.99 装備:絶敵盾
弓使いLv.99 装備:必中矢
(…。)
勇者は目の前が真っ暗になった!ではなく!
(俺だけおかしくない?)
魔王vs勇者一行の結果は想像通りだった。
勇者一行の圧勝だった。
せっかくの魔王の第2、第3形態もあっけなく戦いは終わった。
どんな風に戦ったか?
魔導士が俺の装備の攻撃力を上昇させ、弓使いが魔王を弱体化した。盾使いは魔王の攻撃をすべて防ぎきり、俺は目覚まし時計を魔王にぶん投げた。
1回あてただけで、魔王はダウンしたってわけだ。
戦闘開始から終了までわずか30秒。
正直ちょっと魔王に同情した。
(よりによって目覚まし時計にやられたんだもんなあ…)

こうして俺は何度目かわからない魔王討伐そして、世界を守るという行為を終えた。
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