第1話
文字数 2,925文字
ある街の外れに、ログハウス風の建物がポツンと建っています。店内は北欧風のインテリアで統一されており、二人席が二十四席に、カウンター席が六席あります。
壁にはたくさんの本が並べられたブックラックがあります。ちなみに本は、全て私の蔵書です。
カウンターの奥には、綺麗に食器が収められた食器棚と、サイフォン式コーヒーを淹れる為のロート・フラスコが並べられているのが見えますね。
ここはコーヒーとちょっとした料理を提供する、『Chat Gratuit(自由な猫)』というカフェです。
このカフェには、普通のお客様はあまりいらっしゃらないです。ここに来るお客様には、二つの共通点があるのですが――。
チリンチリン。
おや、どうやら本日のお客様がいらっしゃったようですね。共通点はすぐに分かると思うので今は言わないでおきますね。
そうこうしてるうちに扉が開いて、紺のフォーマルドレスを身に纏った二十代前半の女性が白猫を抱えて入ってきました。
私は精一杯の笑顔で、
「いらっしゃいませ」
と、お客様をお出迎えしました。
女性は困惑した様子で、
「あの、この子を追いかけたらここに来ちゃったんですけど……ここってカフェですか?」
とたずねてきた。
「ここはカフェですね。お客様みたいに、その子に連れられてくる方がよくいますよ」
私がそう言うと、白猫が女性の腕から放れ、私の脚にすり寄ってきました。相変わらず人懐っこい子ですね。ちなみに名前とかは特に付けてないですね。
「とりあえず、コーヒーでもいかがですか? 最初の一杯は無料なんで」
私がそう言うと、女性は、
「じゃあ、いただきます……」
と、申し訳なさそうに答えました。
「かしこまりました。淹れ終わるまでお好きな席でお待ちください。よろしければ、棚の本もご自由に」
私は彼女に促し、カウンタ―に入り、豆を挽き始めました。
ちなみ豆はアラビカ豆です。とても良い香りで、サイフォンで淹れると香りが良く立つんですよ。
豆を中細挽きにしたら、よく水気を拭き取ったフラスコにお湯を注ぎ、火を付けたアルコールランプを下にして、お湯を沸かします。
私は女性がどうしてるか気になり、カウンターからフロアをのぞいてみました。
女性はカウンターに近いテーブル席に座っており、白猫の遊び相手になっていました。 私はカウンターの棚からちゅ~るを取り出すと、水が入ったコップを一緒に持ち、女性の席に置いた。
「よろしければ、この子にあげてやってください」
「あ、ありがとうございます」
女性はちゅ~るを手に取ると、白猫が催促するように鳴き始めました。
袋が破かれ、口元にちゅ~るを持って行くと、白猫はうれしそうになめ始めました。
それを見て、女性は顔をほころばせました。
さて、そろそろお湯が沸く頃でしょう。カウンターに戻ると、ちょうどお湯が沸騰し終えました。
フラスコを一旦アルコールランプから離し、挽いた豆をロートに入れ、それをフラスコにしっかり挿し込んで、再びアルコールランプの下に戻します。
しばらくすると、フラスコのお湯がロートに上がってきました。粉がお湯に浸透するよう、木べらで攪拌しながら待ちます。
お湯が上がりきったところで、アルコールランプを消し、もう一度軽く攪拌して、いよいよ抽出開始です。
少しずつコーヒーが雫となってフラスコに落ちていきます。この光景はどれだけ見ていても飽きませんね。
その間に、カップにお湯を注いで温めておきます。
やがてコーヒーが落ち終わり、フラスコからロートを外します。カップに入ったお湯を捨て、フラスコに入ったコーヒーをカップに注ぐと、とても良い香りが漂ってきました。
私はカップをソーサーに置き、客席に運びます。
「大変おまたせいたしました」
そう言って私は、女性の前にカップをそっと置きました。
「ほわ……いい匂い……」
コーヒーの匂いをかぎ、女性は声を漏らしました。それを聞いた私は心の中で小さくガッツポーズをしました。
女性はそっとカップを持ち上げ、コーヒーを一口飲みました。
「あ、すごく飲みやすい」
「お口にあったようで良かったです」
私がそう言うと、女性は照れくさそうに顔を少し赤らめました。
「よろしければ、スイーツでもいかがですか? こちらはお金をいただくことになってしまいますが……」
私はそう言いながら、女性にメニューを渡しました。
女性はメニューを真剣な眼差しで見ている。やがて、
「じゃあ、この『抹茶パンケーキ』をお願いします」
と、メニューを指さしながら言いました。
「かしこまりました。少々お待ちください」
私はカウンターに戻り、冷蔵庫からパンケーキ生地を取り出しました。
そこから一人分の分量を別の容器に移し、そこに抹茶を入れ、均一になるように混ぜます。
混ぜ上がったら、コンロに火を入れ、フライパンを温めます。ある程度温まったら濡れ布巾で冷やします。
そしたら火を弱め、フライパンを戻します。そこに、先程の生地を流し込みます。
三分ほど片面を焼いたら、ひっくり返してもう片面を三分焼きます。
焼き上がったらケーキクーラーの上にのせ、先程の工程をあと二回繰り返します。
最後の一枚が焼き上がったら、お皿にパンケーキを三枚重ねます。
重ねたら、冷蔵庫から出した抹茶の生クリームを皿の縁にたっぷり絞って、完成です。
「お待たせしました。『抹茶パンケーキ』です」
目の前にパンケーキがやってきた瞬間、女性は顔を輝かせました。
「うわぁ、すごく美味しそう……」
女性は早速ナイフでパンケーキを切り分け、それをフォークで刺すと、抹茶クリームを付けて、口に運びました。
パンケーキを頬張りながら、女性は笑顔を浮かべ、
「ん~! ほいひい(おいしい)!」
と言いました。
私もその笑顔につられて、思わず笑みをこぼしてしまいました。
自分が作った食べ物で誰かが笑顔になる様子は、何度見てもいいものですね。
女性はその後も夢中でパンケーキを食べ進め、時にはコーヒーと一緒に味わい、五分後には完食してしまいました。
「はぁ~、本当に美味しかった……」
女性は満足そうに言葉をこぼしました。
「なんだか、悩んでたことあったけど、こんな美味しいパンケーキ食べたらどうでもよくなっちゃった」
女性はそう言いながら立ち上がると、私に向かって頭を下げてきました。
「ありがとうございました。おかげで頑張れそうです」
「それは良かったです」
女性は私にパンケーキのお金を払い、店を後にしていきました。
私は店の外に出て、女性を最後まで見送りました。
おそらく、あの女性がここを訪れることはないでしょう。悩みもどこかに行ってしまったみたいですし。
『Chat Gratuit』に訪れるお客様は、みんな何かしらの悩みを抱え、その悩みを持った人が白猫に案内されて訪れる店。
「次のお客様はどんな方が来るんでしょうね」
私は足下にやってきた白猫を抱き上げながら、そう呟いた。
壁にはたくさんの本が並べられたブックラックがあります。ちなみに本は、全て私の蔵書です。
カウンターの奥には、綺麗に食器が収められた食器棚と、サイフォン式コーヒーを淹れる為のロート・フラスコが並べられているのが見えますね。
ここはコーヒーとちょっとした料理を提供する、『Chat Gratuit(自由な猫)』というカフェです。
このカフェには、普通のお客様はあまりいらっしゃらないです。ここに来るお客様には、二つの共通点があるのですが――。
チリンチリン。
おや、どうやら本日のお客様がいらっしゃったようですね。共通点はすぐに分かると思うので今は言わないでおきますね。
そうこうしてるうちに扉が開いて、紺のフォーマルドレスを身に纏った二十代前半の女性が白猫を抱えて入ってきました。
私は精一杯の笑顔で、
「いらっしゃいませ」
と、お客様をお出迎えしました。
女性は困惑した様子で、
「あの、この子を追いかけたらここに来ちゃったんですけど……ここってカフェですか?」
とたずねてきた。
「ここはカフェですね。お客様みたいに、その子に連れられてくる方がよくいますよ」
私がそう言うと、白猫が女性の腕から放れ、私の脚にすり寄ってきました。相変わらず人懐っこい子ですね。ちなみに名前とかは特に付けてないですね。
「とりあえず、コーヒーでもいかがですか? 最初の一杯は無料なんで」
私がそう言うと、女性は、
「じゃあ、いただきます……」
と、申し訳なさそうに答えました。
「かしこまりました。淹れ終わるまでお好きな席でお待ちください。よろしければ、棚の本もご自由に」
私は彼女に促し、カウンタ―に入り、豆を挽き始めました。
ちなみ豆はアラビカ豆です。とても良い香りで、サイフォンで淹れると香りが良く立つんですよ。
豆を中細挽きにしたら、よく水気を拭き取ったフラスコにお湯を注ぎ、火を付けたアルコールランプを下にして、お湯を沸かします。
私は女性がどうしてるか気になり、カウンターからフロアをのぞいてみました。
女性はカウンターに近いテーブル席に座っており、白猫の遊び相手になっていました。 私はカウンターの棚からちゅ~るを取り出すと、水が入ったコップを一緒に持ち、女性の席に置いた。
「よろしければ、この子にあげてやってください」
「あ、ありがとうございます」
女性はちゅ~るを手に取ると、白猫が催促するように鳴き始めました。
袋が破かれ、口元にちゅ~るを持って行くと、白猫はうれしそうになめ始めました。
それを見て、女性は顔をほころばせました。
さて、そろそろお湯が沸く頃でしょう。カウンターに戻ると、ちょうどお湯が沸騰し終えました。
フラスコを一旦アルコールランプから離し、挽いた豆をロートに入れ、それをフラスコにしっかり挿し込んで、再びアルコールランプの下に戻します。
しばらくすると、フラスコのお湯がロートに上がってきました。粉がお湯に浸透するよう、木べらで攪拌しながら待ちます。
お湯が上がりきったところで、アルコールランプを消し、もう一度軽く攪拌して、いよいよ抽出開始です。
少しずつコーヒーが雫となってフラスコに落ちていきます。この光景はどれだけ見ていても飽きませんね。
その間に、カップにお湯を注いで温めておきます。
やがてコーヒーが落ち終わり、フラスコからロートを外します。カップに入ったお湯を捨て、フラスコに入ったコーヒーをカップに注ぐと、とても良い香りが漂ってきました。
私はカップをソーサーに置き、客席に運びます。
「大変おまたせいたしました」
そう言って私は、女性の前にカップをそっと置きました。
「ほわ……いい匂い……」
コーヒーの匂いをかぎ、女性は声を漏らしました。それを聞いた私は心の中で小さくガッツポーズをしました。
女性はそっとカップを持ち上げ、コーヒーを一口飲みました。
「あ、すごく飲みやすい」
「お口にあったようで良かったです」
私がそう言うと、女性は照れくさそうに顔を少し赤らめました。
「よろしければ、スイーツでもいかがですか? こちらはお金をいただくことになってしまいますが……」
私はそう言いながら、女性にメニューを渡しました。
女性はメニューを真剣な眼差しで見ている。やがて、
「じゃあ、この『抹茶パンケーキ』をお願いします」
と、メニューを指さしながら言いました。
「かしこまりました。少々お待ちください」
私はカウンターに戻り、冷蔵庫からパンケーキ生地を取り出しました。
そこから一人分の分量を別の容器に移し、そこに抹茶を入れ、均一になるように混ぜます。
混ぜ上がったら、コンロに火を入れ、フライパンを温めます。ある程度温まったら濡れ布巾で冷やします。
そしたら火を弱め、フライパンを戻します。そこに、先程の生地を流し込みます。
三分ほど片面を焼いたら、ひっくり返してもう片面を三分焼きます。
焼き上がったらケーキクーラーの上にのせ、先程の工程をあと二回繰り返します。
最後の一枚が焼き上がったら、お皿にパンケーキを三枚重ねます。
重ねたら、冷蔵庫から出した抹茶の生クリームを皿の縁にたっぷり絞って、完成です。
「お待たせしました。『抹茶パンケーキ』です」
目の前にパンケーキがやってきた瞬間、女性は顔を輝かせました。
「うわぁ、すごく美味しそう……」
女性は早速ナイフでパンケーキを切り分け、それをフォークで刺すと、抹茶クリームを付けて、口に運びました。
パンケーキを頬張りながら、女性は笑顔を浮かべ、
「ん~! ほいひい(おいしい)!」
と言いました。
私もその笑顔につられて、思わず笑みをこぼしてしまいました。
自分が作った食べ物で誰かが笑顔になる様子は、何度見てもいいものですね。
女性はその後も夢中でパンケーキを食べ進め、時にはコーヒーと一緒に味わい、五分後には完食してしまいました。
「はぁ~、本当に美味しかった……」
女性は満足そうに言葉をこぼしました。
「なんだか、悩んでたことあったけど、こんな美味しいパンケーキ食べたらどうでもよくなっちゃった」
女性はそう言いながら立ち上がると、私に向かって頭を下げてきました。
「ありがとうございました。おかげで頑張れそうです」
「それは良かったです」
女性は私にパンケーキのお金を払い、店を後にしていきました。
私は店の外に出て、女性を最後まで見送りました。
おそらく、あの女性がここを訪れることはないでしょう。悩みもどこかに行ってしまったみたいですし。
『Chat Gratuit』に訪れるお客様は、みんな何かしらの悩みを抱え、その悩みを持った人が白猫に案内されて訪れる店。
「次のお客様はどんな方が来るんでしょうね」
私は足下にやってきた白猫を抱き上げながら、そう呟いた。